第3回育児セラピスト全国大会シンポジウムを振り返って(3)優秀実践発表会

 交流会のあとには、全国大会シンポジウムのメインイベントである優秀実践発表会が行われました。ここで行われる発表は、シンポジウムに参加して、最も実になり、実践的な学びが得らるので、私自身、毎年楽しみにしているパートです。

実践発表の前に、東関東大震災の義捐金募金の収支報告を行いました。

 皆様からお預かりした義捐金は、「Save The Children」に寄付させていただいたり、陸前高田の保育園に物資を寄付したり、被災地でのベビーマッサージ教室開校などのために、使わせていただきました。詳しくは、「全国大会 in 2012 報告書」にもまとめますので、そちらをご覧ください。

 うれしかったのは、物資を寄付させていただいた陸前高田の下矢保育園の園児たちからお礼のハガキをもらったことです。

 

園児からのハガキ2.jpg園児からのハガキ1.jpg(園児からもらったハガキ)


 次に、被災地でのベビーマッサージ教室のボランティア活動を指揮してくださった島田恭子さん(しらゆりベビーホーム施設長、育児セラピスト上級認定講師)に、活動報告をしていただきました。

 実は、この活動は、昨年2011年の全国大会で、2012年に向けての活動を考えるワークショップの際に、島田さんのグループで発案されたのが、きっかけでした。島田さんは、発起人として、このプロジェクトを実現に導いた張本人です。

 

島田さん報告3-480.jpg島田さんがまず行ったのは、乳児院施設長としてのネットワークによって、地元の児童相談所と石巻市の子育て支援課とつながることでした。そして、ベビーマッサージ教室を開校することで、被災地のお母さんと子どもの心を癒す支援をしたい、と訴えました。その結果、二か所の子育て支援センターと、一か所の児童館での開校が決定しました。

そして、2012年7月、ベビーマッサージオイルとインストラクションDVDを、当協会より支給して、島田さんと2人のABMインストラクターが現地に向かいました。

 

島田さん報告1.jpg島田さん報告2.jpg  被災地でのベビーマッサージは、乳児だけでなく様々な年齢帯の子どもとお母さんが参加しました。被災地での子育ては、普通以上に慌ただしく、なかなか子どもとゆっくり接する時間がない、と感じているお母さんが多く、少ない時間で、子どもとの密接した時間と交流ができるところに、ベビーマッサージの良さを感じていただいたようです。多くのお母さんが、これからも続けていきたい、コミュニケーションの一つとして取り入れたいという感想を抱いた、と報告してくださいました。

 

 

 続いて、全国の育児セラピストとABMベビーマッサージインストラクターから募った実践報告の中で、特に象徴的で、皆でシェアしたい実践事例を報告いただいた4分野4名の方々を優秀実践者として選出し、表彰させていただき、実践報告をしていただきました。

 

発表1-480.jpg 最初は、アタッチメント教室部門・優秀実践者の峰 孝子 さんの発表です。
 峰さんは、お母さんの立場で、ABMベビーマッサージインストラクター資格を取られ、アタッチメントベビーマッサージ教室を自宅や子育て支援センターで開いて活動されています。峰さんがすばらしいのは、非常に地域に根をはった活動になっていることです。市の子ども家庭支援センターで「ベビーマッサージ講習会」を行い、その縁を、自宅のベビーマッサージ教室につなげ、同じくらいの子を持つ地域のお母さんたちが、集まり、話をして、相談できる場を作っています。
 また、Face Book(インターネットのソーシャルメディア)を、非常にうまく活用されておられました。その日の教室の様子や一言アドバイスを、Face Bookにアップして、「いいね」を押してもらい、参加者同士で共有するというものです。これによって、参加者の口コミや紹介が起きやすくなり、人の輪がうまくつながる流れが出来ています。
 峰さんが素晴らしいのは、こうした「人のつながり」を、きちんとデザインして、実践に落としている点です。これは、他の教室を運営しているインストラクターの方々、特に、峰さんのように自宅でベビーマッサージ教室を開校している方には、非常に参考になると思います。

 

発表2.5.jpg 次に、保育・幼児教室部門・優秀実践者の儀賀 栄子 さんです。儀賀さんは、子育て支援センターのセンター長をされており、公の立場から文字どおり地域の子育てを支援していらっしゃいます。もともとは、保育の現場におられ、移動によって、現職に就いておられます。
 これまでは「子どもの保育」を実践する立場であったものが、「親子の支援」を提供する立場に変わりました。自分が、直接保育するのと、お母さんが保育するのを助けるのとでは、全く違います。
 そんな中で、儀賀さんが素晴らしいのは、センターの運営理念を掲げて、それに沿った様々なアクティビティを、お母さんに提供していることです。様々な年齢帯、様々な親のニーズに対応するために、いろんな角度から「親子のアクティビティ」を企画実行されています。さらに「親教育」の視点も取り入れられており、セミナーや母親教室なども実施されています。
 儀賀さんの実践事例は、同様の立場の方にとっての道しるべになるだけでなく、子育て支援センターとつながって活動するインストラクターにといっても、自分の出番を見出すきっかけになるのではないかと思います。

 

発表3.5.jpg 次は、医療・看護部門・優秀実践者の杉原 美代子 さんです。舛本産婦人科医院という地元でも大規模な産科医院の看護師さんという背景から、院内で教室を開校しています。また、個人の活動として、「育(hug) の会」を主宰しており、地域の親子のハブとなる役割を担われています。
 杉原さんが素晴らしいのは、現場の産科医院を活かし、医院を地域の「子育て支援のハブ」として機能させている点です。産科医院は、妊産婦から、子どもを産んで間もないお母さんが、たくさん集まります。そうしたお母さんに、ベビーマッサージをはじめとする教室を開校してあげることによって、診察や診療以外の目的で、医院に来る目的を作ってあげられています。それによって、お母さんたちは、同じくらいの子を持つ仲間と話す場を得られ、そして、杉原さんという「おばあちゃんの知恵袋」を得ることが出来るのです。
 子育て支援において、積極的に支援センターなどに来られるお母さんは、比較的に安心です。深刻なのは、外にでかけられない(その気力もない)お母さんです。そうしたお母さんにとって、自分が子どもを産んだ産科医院で行われる教室は、行きやすいはずなのです。
 いま、この杉原さんの事例のように、産科医院や小児科医院、歯科医院などが教室を開校し、親子が、診療や治療以外の目的で医院に集い、結果的にその医院が、地域の子育て支援のハブになっている、というケースは、着実に増えています。
 私が知るだけでも、産科医院では、広島の舛本産婦人科医院(http://www.masumoto-ladys-clinic.jp/)、小児科医院では、岐阜のキッズクリニックアリス(http://kidsclinic-alice.com/)、歯科医院では愛知の岩井歯科(http://www.iwai-dc.com/)などがそのケースで、当協会の資格者が活躍しています。

 

発表4.5.jpg 最後は、子育て支援部門・優秀実践者の川島 美保 さんです。川島さんは、高知大学で、看護師養成をしている大学講師で、大学における地域支援ボランティアの一環として、子育て支援団体「アンスリール」を主宰しておられます。
 川島さんは、大学講師という立場から、子育てにおける「知識」の重要性を訴えておられました。「子育ては、知識でするものではない」と言われることもありますが、現代の子育てにおいて「知識」があるのとないのとでは、大きな違いがあります。川島さんが注目したのは、「Parenting Education(PE)」という概念です。これは、情報、スキル、経験、振り返りという要素から構成される「親支援活動」です。
 この活動の実践において、アタッチメントをはじめとした育児セラピストの知見を伝える活動を行っています。
 川島さんの素晴らしい点は、「企画力」、「説得力」、「学ばせ力」の三つの視点が、しっかりとプロジェクトに盛り込まれている点です。「企画力」とは、イベントの企画立案とその構成です。「説得力」というのは、学びの背景の持って来方や説明の仕方です。「学ばせ力」というのは、体験型ワークショップや振り返りなどを意図的に組み込んで、学びをより深めるための工夫です。
 川島さんの実践事例からは、子育て支援そのものの在り方や行方を模索するために、何を、どのように進めていくと良いのかについての道筋を作る参考になると思います。その意味で、すべての子育て支援に関わる方にとって、参考にしていただける事例だと思います。

 

 

優秀実践者集合.jpg 今回の振り返りの中では、概要をお伝えしていますが、4人の優秀実践者の発表内容のスライドについても、アタッチメントライフ(受講生専用サイト)内でシェア出来るようにしようと思っています。実際のスライドを併せて、この振り返り報告を読んでいただくと、より深い気づきと発見を見出していただけるかと思います。

今年も、4人の優秀実践発表は、素晴らしいものでした。「育児」「保育」を軸に、様々な立場、さまざまな分野で、活躍するたくさんの資格者のみなさんにとって、それぞれに参考にしていただける、あるいは刺激としていただける内容であったと思います。ぜひ、皆さんの2013年に向けての一歩にお役立てください。


一般社団法人日本アタッチメント育児協会
代表理事 廣島 大三
 

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