育児の専門家としての「育児セラピスト」が身近にいる子育て環境が必要
日本アタッチメント育児協会の講座には、保育士さんが多いのですが、心配なご家庭またはお母さんやお子さんが多いことを危惧していたり、そうした親御さんとどう接して、何ができるのか、あるいは出来ないのか、といった悩みを聞きます。また、保育の現場では、いま「親たちの悩み相談」が保育士の重要な役割となっています。
そうした現状の中で、不安定な心理状態になっている親たちの扱いに大きなストレスを感じ、また、深刻化する育児相談の中で、自信を持ってアドバイスが出来ずに、自身の育児知識への限界を感じている保育士が増えています。これは、私も、講座を通して、受講生から聞くことですし、当協会がお世話になっている中部学院大学子ども学科長であり、ご自身も、保育士の育成と再訓練に携わっておられる寺見陽子教授も、同じことをおっしゃっておられました。
おなじような状況は、小児科や産科の看護師にも起きています。
ところで、私は、正しい育児法というのがあるとは、考えていません。10人10色、100人100色、親子の組み合わせの数だけ、育児スタイルがあると思います。でも、「これだけは踏んでおかなきゃいけない」というポイントや「これは、やっちゃダメ」ということが、子育てにはあると思っています。ただし、それは、何かのノウハウ的のように、箇条書きに一般化できるようなことではなく、もっと抽象的なことなので、いろんな要素を学び、感じ取るという類のことなのだと思います。
恐らく、一昔前(江戸時代以前)なら、そうしたことは、意識しなくても、親が親になれる仕組みがあったのだと思います。大家族や地域社会などの環境の中で、子どもは、親だけでなく、地域全体で育てていた時代です。でも、高度経済成長期以降、そうした「親になる環境」がなくなり、親が親になりきれずに、子どもが大きくなってしまう時代になっているのかもしれません。
そのような時代において、心が育たない育児環境で育つ子どもが多いことは事実です。そして、そうした子育てをしている親自身は、子どものことを精一杯愛していて、子どものことを思っている、というのも事実です。思春期を過ぎて、子どもが「うつ」や「ボーダー」になったり、あるいは、反社会的な行動に至った時に、はじめて気付かされる、という事態は、現実に起きています。
だからこそ、適切な知識と知見をもって、親を導くことができる人が、身近にいることは、とても重要だと思います。
私は、親たちが、安心して意見を聞くことができる育児の専門家が、いま必要だと思っています。そうした人を育成して、資格を与えることが大事だと考えています。先輩ママとか、保育士とか看護師とかいうバックグラウンドだけでは、親は、なかなか、耳を傾けませんし、逆に、適切なアドバイスも難しいのが現実です。だから、体系だった知識を学び、それらを伝えるスキルを学んだ人に資格を与えることで、親は、安心してその人に耳を傾けますし、専門家は、学んだ専門知識や知見に基づいて、親を導くことができます。
それが「育児セラピスト」です。
この資格を、文部科学省許可財団の認定資格にすることに取り組んだのは、「育児セラピスト」という資格を持つ人に対して、親が信頼をよせて耳を貸しやすくなることと、資格保持者が、自信を持てる資格にすることが大きな理由です。もう一つ、この資格を、永続的な資格として育てていくことです。そのために、公的な機関の認定を得ることが必要と考えました。
健やかな子育て、豊かな子育てをして、すべての子どもが、個性豊かにハッピーチャイルドに育つための試みとして、いま、子育て真っ最中の方や、これから子育てをする方たちに伝えていく人材としての「育児セラピスト」を育成するのが、私の役割と思っています。
最後に、子育てに正解なんてありません。でも、間違った子育てというのは、実際に存在していて、それは、子どもが憎くてそうしているわけではなく、むしろ愛情の結果であるところに、難しさを感じています。子どもが、心に問題を抱えて、それが表面化するまで、親は、そのことに気づかないところが、とても難しいところです。
これについては、これから、私自身、真剣に考えていかなくてはいけないと思っています。