株式会社マールの活動紹介

「ママ支援」という社会貢献型ビジネスのモデルケース

株式会社マールの活動紹介

株式会社マールさんは、リラクゼーションサロンを運営する会社です。マールさんの展開は、産後ママに多くの顧客をもつ同社ならではの展開です。注目すべきは、リラクゼーションサロンでベビーマッサージ教室を展開しているというだけでなく、リラクゼーションサロン事業が、当協会の学びときれいに噛み合い、独自の子育て支援プラットフォームとして機能していることです。

この事例は、接骨院、整骨院など他の施術系事業や歯科医院、小児科医院で参考になるのはもちろんです。それだけでなく、ひろば事業や子育て支援センターの運営においても、参考になることと思います。

発表では、代表の梶浦さん、セラピスト(施術師)の真部さん、院内保育士の森さんが、それぞれの立場でお話をしてくれました。

自然にいたった産後のママの役に立ちたいという思い

マールさんでは、ママのための「産後エステ」サービスを展開し、梶浦さんもセラピストとしてお客さんに接していました。

そんな中、こんな声が気にかかりました。「明日から始まる子育てが不安」「授乳が上手くできなくて母親失格」初産婦さんの8割が不安を抱えて退院していく現実を知ります。すると、産後うつ、幼児虐待、育児放棄、いじめ、産後ママの自殺といった社会問題が、現実味をおびて感じられました。

「私に何かできることはないか」「子育てをもっと楽しくハッピーにしてあげられないか」

同じ母として、女性として自然に、そんな思いにいたりました。

ママたちの不安に寄り添うための知識とスキルを

梶浦さんは、ママたちの不安な気持ちに寄り添おうと考えました。そのためには、自分がもっと学ばなければ、対応できないと思い、学びを求めました。

インターネットで探す中、一つの言葉がひっかかりました。

「根拠を持って、赤ちゃんのことを知る」

読み進めると、その根拠は、「アタッチメント理論」と「発達心理学」にあると書かれていました。すぐさま「これだ!」と直感し、さっそく申込をしました。それが、「アタッチメント・ベビーマッサージ講座」であり、日本アタッチメント育児協会との出会いでした。

少人数のクラスで、丁寧にアタッチメントを伝えよう

少人数のクラスで、丁寧にアタッチメントを伝えよう

資格取得後、さっそく教室を開きます。大人数だと伝えきれない、パパとママ両方に伝えたかったという理由から、はじめてのベビーマッサージレッスンは、4組のパパとママと赤ちゃんで開催しました。

「これならパパにもできる」「赤ちゃんが笑顔になって嬉しい」といった生徒さんの声に確かな手ごたえを感じました。

もっとママたちに寄り添うサロンになれる

「ママ支援」のスイッチが入った梶浦さんは、ママに寄り添う新たなコンセプトを立てました。

「保育士のいるリラクゼーションサロン・マール」

この新コンセプトは、マールさんの事業のポジショニングを変えるような大きな役割を果たします。顧客を「子育て中のママ」と明確化する。これは、近代マネジメントの祖ドラッカーも推奨する手法です。

顧客満足が各段にあがり、関係性が深くなる

マールさんは、もともと産婦人科からの「産後エステ」が入り口の集客として機能しています。そこに、さらに「ベビーマッサージ教室」が加わります。

そして、ひとたび顧客になれば、子連れでエステに行ける。施術中も安心してエステを受けられる。ベビーマッサージも教えてもらえる。育児セラピスト(育児の専門家)が育児相談にものってくれる。こうなると、一度マールさんに来たら、他のサロンに行く理由はみつかりません。

子育て中の社員の教育がすすむ

さらに梶浦さんは、社員に対して、自らが学んだことを伝えます。それによって、社員のアタッチメントに関する知識レベルが上がり、顧客対応は向上します。それだけでなく、子育て中の社員にとってアタッチメントは、みずからの関心事ですので、内的動機で学習がすすみます。実際、マールさんでは、梶浦さんのほかに、2名の社員が、アタッチメント・ベビーマッサージ講座や育児セラピスト1級などを受講されています。しかも、おふたりとも自分の意志で受講しており、当初梶浦さんは、受講したことを知らなかったそうです。こんな方が接客してくれたら、お客さんは、大満足でしょう。

子育て支援をつうじて行政や他企業とのつながりも

子育て支援をつうじて行政や他企業とのつながりも

サロン事業は、「子育てママ」に特化することで、事業そのものが子育て支援として機能しはじめます。

そうなると、企業の子育て支援型福利厚生のアウトソーシング先として、他の企業(とくに大企業)から声がかかるようになります。

また、香川県の取り組みとして、ママさんの悩みを行政に届けることを目的とした「子育て美容eki」への県からの参加オファーにもつながりました。

こうして、行政や他企業ともつながりながら、まさに子育て支援のプラットフォームとして、機能するようになりました。

セラピスト・真部さんの話

セラピスト・真部さんの話

セラピストの真部さんは、梶浦さんのアタッチメントの講習に共感し、その後自らも受講したひとりです。

3人のお子さんの子育てをする真部さんが、まず受講したのは、育児セラピスト1級でした。みずからの子育てへの興味もあったことと思います。

まずは、育児セラピストから学んでみよう

ママたちに施術を行う真部さんは、悩みや不安を聞いたり、アドバイスを求められたりすることが多い立場です。そうしたママたちに、きちんと根拠をもって答えてあげたい、という思いから、まずは、育児セラピストを受講されました。翌年、アタッチメント・ベビーマッサージ講座も受講されています。

施術中のコミュニケーションが、関係性づくりのカギ

元来、施術で体をほぐされると、人間は心がオープンになります。サロンが、悩み相談になるのは、そのためです。

アタッチメントについて、発達について、コミュニケーションについて、夫婦について、家族について。育児セラピスト1級でこれらを体系的に学ばれた真部さんに施術されたママは、とても安心感をもつでしょう。そして、満足度が高く、人間関係も深くなることは容易に想像できます。

真部さんは発表の中で「ママを笑顔にしたい!」「悩みに寄り添いたい!」「問題解決につなげたい!」という思いを語り

「子育て中のママが癒され笑顔になり、その子どもたちも癒しと笑顔が連鎖する」という考えをモットーにしていると話してくれました。

スタッフに教えることで、知識が定着し、理解が深まる

真部さんは、受講後に、スタッフに学んだことを教えました。これは、スタッフ教育になるだけでなく、真部さん自身のスキルアップにもつながります。人は、インプットしたことを、アウトプットすることで、理解を深めます。中でも教えることは、アウトプットとしては最高です。

保育士・森さんの話

保育士・森さんの話

梶浦さんの新コンセプト「保育士のいるリラクゼーションサロン・マール」の実現において、大きな一役を担ったのが、保育士の森さんでしょう。

梶浦さんの新コンセプトを形にしたい

森さんは、子連れでサロンに来たお母さんが施術している間の託児を受け持っていました。そこで、子育てに悩むお母さんたちの姿を目の当たりにします。それとともに、そうした悩みに応えるために、本格的に学ぼうという気持ちが芽生えていました。

そして梶浦さんが受講した5か月後に、「アタッチメント・ベビーマッサージ講座」を受講しました。森さんも2児のママですが、受講当時お子さんは0・1歳のころですので、まさにご自身の子育てでも、ベビーマッサージを取り入れて、仕事のスキルアップと育児の関心がうまくかみ合っていたのだと思います。

ベビーマッサージ教室が入り口集客として機能するまで

ベビーマッサージ教室が入り口集客として機能するまで

資格取得後は、サロンのお客さん向けにベビーマッサージ教室を開きました。そのため、プライベート感を重視して少人数の完全予約制ではじめました。

その後、子育て支援センターにチラシを置いて頂いたり、産院の産後エステサービスといっしょに案内したり、自社の産後整体のお客さんに案内したりして、マールのベビーマッサージ教室を知ってもらうようにしました。こうして入り口集客としてのベビーマッサージ教室がスタートします。

サロン内の教室だけでなく、出張教室で、さらに認知を広げます。支援センター、親子カフェ、イベント、スポーツジム。

こうして、森さんを中心に、サロンの入り口集客として、ベビーマッサージが機能し始めます。

廣島が見たマールさんの注目ポイントのまとめ

株式会社マールさんの3人の発表は、これからの社会貢献型ビジネスのモデルとなるものです。会社である以上、利益を出さなければ、存続できません。しかし、社会や地域の役に立っていなければ、やはり存在価値は認められません。つまり、「そろばん」と「思い」の両輪を回す必要があるのです。代表の梶浦さんは、そこをバランスよく運営されていると思います。

マールさんのケースがうまくいった要因とは?

以下にまとめてみました。

  • 顧客を「子育てママ」に特化した
  • 社員教育として「アタッチメント」や「発達」を取り入れた
  • 子育ての悩み相談やママに寄り添う接客で、顧客満足を格段に上げた
  • リピーターのフォローとしてのプライベートなベビーマッサージ教室
  • リラクゼーションサロンというだけでなく、子育て支援プラットホームのポジションを取った
  • ベビーマッサージ教室を入り口集客として機能させた
  • 企業や行政との子育て支援を通じた連携を実現した

こうしてまとめてみると、やはり『顧客を「子育てママ」に特化した』戦略が、功を奏していると解釈できます。これは、一見簡単そうですが、徹底してやるのは難しいことです。企業の多くは、徹底しきれなくて、中途半端になって結果が出ないのです。その点、マールさんは、非常に徹底しているようにお見受けしました。