Event
第14回 育児セラピスト全国大会(シンポジウム)
忘れていた「コロナ前にはあたりまえだったこと」
今年は、それを取り戻す
新型コロナウィルスが2類から5類に移行し、日本もようやく「ノーマル」の日常を取り戻してきています。いまでは、コロナ禍に入ったころが、はるか昔に感じられます。多くのことが起こり、いろんな対応を余儀なくされた3年、良くも悪くも濃い3年でした。
テレワークやオンライン講座が普及し、ZOOMをはじめとするツールも進化を遂げました。わたしも今では、海外出張してもテレワークによって、日本にいるときと変わりなく仕事ができています。
オンライン講座は、もはやコロナ禍の対応手段ではなく、受講スタイルの一つとして、独自の歩みをはじめています。空間を超えて集まれる。どこからでも受講できる。これは、もはや利便性だけの話ではありません。場所や地域、国さえも超えた“多様性”という価値が加わったという話です。
その一方で、あらためて“対面の価値”を再認識させられもしました。われわれは、対面の空気感や臨場感から生まれるチカラを、いつしか忘れてしまっていたのです。物理的に同じ空間を共有することで、はじめて立ち上がる「意味」があります。たとえば、休憩時間の使い方です。オンラインは、カメラとマイクをオフにして個々にそれぞれ過ごしますが、対面では同じ場を共有し続けるので、自然と雑談がはじまります。そこから話が展開したりします。それが、講座とは別の文脈の学びや機会を生んだりします。そうした“偶然から派生する想定外の価値”が、対面の場ではよく生まれるのです。
われわれは、いまやオンラインの価値を知っています。そして、対面の価値も同時に知っています。それぞれに違う独自の価値があることを知っています。
そしてむかえる“コロナ禍が明けた今年”の全国大会は・・・
「あえて『対面参加』を強調したい」と思います。
この3年間、制限されてきたために忘れてしまった「対面の価値」を再確認したい。なにげない雑談から始まる展開、広がる文脈を楽しみたい。体に伝わる空気や高揚を感じたい。
そんなすべての思いを込めて、今年はぜひ、東京のアタッチメント・アカデミアに来ませんか?わたしたちも名古屋から向かいます。3年間ためた思いを放出して、対面で集いましょう!非効率なことかもしれません。手間も時間もかかります。お金も余分にかかるでしょう。それでも、充分なお釣りがくるぐらいの価値があります。本当の学びは、非効率で非合理なところに宿ります。われわれは、そのことを知っていたはずです。コロナ禍によって、忘れ、見過ごしてしまっていただけです。大事なものを、とりもどしましょう。今年大切にしたいのは・・・
「忘れてしまった『対面の価値』を取り戻し、味わいなおす」
もちろん昨年同様「オンライン参加」も大歓迎です。ZOOMによるオンライン参加は、コロナによって拓かれたあらたな価値です。一方で、効率がよくて便利な分、刺激や行動連鎖の面で限界があるのもたしかです。それでも、「会場に行くのは遠すぎる」、「前泊や後泊がむずかしい」、「会場に行く時間がどうしても取れない」といった事情はあるでしょう。そういう方は、ぜひオンラインで、ご自宅もしくは任意の場所からご参加ください。様々な場所から人が集まることで生まれる多様性は、まぎれもなくオンラインならではの価値です。対面とオンライン、参加者がそれぞれに独自の体験をしていただく。そのための環境を整えて臨みます。
一般社団法人 日本アタッチメント育児協会
代表理事
(日)
シンポジウム
「子育て・保育・教育を、10年先へアップデートする」
これまでは存在しない新しい専門家をつくる
13年前の2010年におこなわれた第1回の育児セラピスト全国大会のテーマは「10年後の子育て環境を考える」でした。そしてコロナ禍に突入した2020年、わたしたちは実際に“10年後”の子育て環境を、コロナ禍という特殊な状況で経験しました。本来なら、ここで次を描くはずでしたが、先行きの見えなかったコロナ禍は、みんなやり過ごすので精一杯でした。
そして2023年。コロナはようやく収束しました。次の10年を考えるなら、このタイミングしかありません。3年以上続いたコロナ禍は、さまざまな“現実”を加速させました。テレワーク、オンラインミーティング、オンライン講座は、コロナ前から存在してはいましたが、コロナによって技術も進み、一機に一般に広がりました。
どこにいても、仕事ができる世界が、本当の意味で現実になった
実はわたしも、この原稿を書いている2023年6月は、海外からテレワークで1か月くらい仕事しています。それでも、すべてが通常どおりです。ZOOMで朝ミーティングをおこない、Skypeのチャットで、原稿チェックや仕事の指示をしています。先日は、アタッチメント発達支援のオンライン講座を、海外からおこないました。続いて、育児セラピスト1級のオンライン講座にも登壇を予定しています。
じつは、わたしは、2005年からテレワークをテンポラリーに実践してきました。海外に2週間~1か月滞在して、日本の業務をまわしてきました。これを、ほぼ毎年行ってきました。しかし、これまでは、日本にいるときと全く同じとは、とても言えませんでした。いろんな面で不都合や不便があり、意思疎通や指示に時間と手間がかかっていました。スタッフにも苦労をかけ、不安を抱かせてようやく成立していました。海外から講座をやるなんて、夢にも思っていませんでした。
それが、いまや仕事をするうえでは、もはや日本の事務所にいるときと、本当に何ら変わりません。コロナ禍によって、技術が進んだのと同時に、受講する側を含めた多くの人が、その技術にキャッチアップして、あたりまえのインフラになったからです。これは、コロナによって加速した“よき現実”といえるでしょう。
コロナは、“不都合な現実”をも加速させ、意識の変化を強要した
逆に、コロナが“不都合な現実”を加速させた側面もあります。「ゾンビ企業」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?コロナよりずっと前から、業績が芳しくない状態が続き、本来なら倒産せざるを得ない状況で、追加融資や融資の借り換えを続けることによって、10年以上も存続し続けている企業です。こうした企業の多くは、コロナが引き金となって倒産しました。コロナがなければ、まだまだゾンビ企業として生き延びていたことでしょう。コロナは、ゾンビ企業の倒産を加速させました。
逆に、体力のある企業や、業績のよい会社は、コロナ禍に一気に会社の制度改革に乗り出しました。とくに、人材の評価制度と採用方針です。いま企業がもっとも高い報酬を約束し、もっとも採用したいのは、“厳しい環境の中でも、創意工夫によって結果の出せる人材”です。こうした人材は、これまでの評価制度では対応できませんし、これまでの採用方針では採れません。ユニクロの柳井社長がおこなったのは、まさにこれです。ただ給与を上げたのではなく、有能な社員の選別をはじめたのです。よく考えれば、この対応は、人口減少フェーズに入った日本において、遅かれ早かれ必須の課題でした。コロナがなければ、もっと長い時間をかけて探り探りおこなわれただけのことです。それが、コロナによって加速したのです。
コロナは、ダメな保育園に「否」をつきつけた
保育の現場に目をやってみましょう。保育士による虐待まがいの保育実態や、スクールバスでの園児の置き去りなど、このコロナ禍に、連日のようにニュースになっていました。なぜこれほど連続して起こったのか?
コロナ禍というエクストラのストレスは、すべての人の心を限界点に近づけました。かくして、事件の当事者となった保育士は、園児に怒りをぶつけ、不適切な行動に向かいました。スクールバスの運転手は、コロナ禍における注意事項の多さとストレスで、認知の限界を超え、園児を置き去りにして死に追いやりました。
しかし、そのような事件を起こしたのは、ほんの一部です。他の多くの園では、コロナ禍という過酷な状況の中でも、適切な保育を続けていました。事件を起こした園は、コロナ前からすでに運営が破綻していたのです。保育士が園児に怒りをぶつけてもよい園の態勢、確認をおざなりにしてもよいスクールバスの運行体制、すべてコロナ前からの悪習だったはずです。コロナが、それを加速させ、強調しただけのことです。
“これまでどおり” のやり方・方針・価値観は通用しなくなる
われわれは、かくしてコロナが加速した現実を前提にして、これからの10年を描く必要があります。一言で言えば、「“これまでどおり” のやり方・方針・価値観で、うまくいくことは一つもなくなる」という世界観だと、わたしは考えています。
多くの親がいまもこんな価値観を信じています。
「勉強を頑張って、よい大学に入れば、一流企業に入社できる。そうすれば将来は安泰だ」
「子どもの可能性を広げるために、習いごとは、できる限り全部やらせてあげたい! 」
「小学校にあがったら、塾に行かないと学校の勉強だけでは、遅れをとってしまう」
「中高一貫校に入れれば、高校受験で苦労しないし、推薦で系列大学に行けるので有利だ」
これらは、10年後ではなく、いますでに過去の話になっています。少なくとも、教育関係者や企業経営者、採用担当者といった人たちにとっては、あたり前の事実です。10年後には、多くの人にとって “過去の価値観”になっているでしょう。たとえば、いま人口減少の問題に疑問を抱く人はいないでしょう。それだって、一部の人たちは、人口動態を観て10年前からわかっていて、すでに対応策を考え始めていたことです。しかしそのころ、世間では話題にさえなっていませんでした。早く対応しはじめた人が有利であったことは、言うまでもありません。
“いま”を生きる子どもたちに、大人がしてあげられる有意義なことをする
子育てをする親、保育士、学校の先生、子育て支援にたずさわる人にとって、これからの10年で起こる「新しい価値観の世界」がどういうものであるのか、どう備えをするのか、子どもをどう導くのか、何を重視して、何を重視しないのか?
すべての価値観が、これまでとは真逆や別方向に向かいます。そうしたことを見通せているかどうかは、子どもの未来に直接影響します。世の中が変わってからでは、子どもは成長してしまっています。だから「いま」なのです。
わたしは、不安を煽るような言い回しは好きではありません。そういうことは、なるべく言わないようにしてきました。しかし、今回だけは伝えます。この先10年をかけて、われわれの生きる世界は、まさに「新時代」をむかえます。そういう時代を生きる子どもたちに、身につけて欲しい考え方・スキル・アイデンティティがあります。わたしは、それらを総じて「世界の中のワタシ」という言葉で表現しています。ご興味のある方は、理事長ブログ「“世界の中のワタシ” を育てる」をお読みください。
基調講演
廣島 大三理事長
「子育て・保育・教育を、10年先へアップデートする」
今年の全国大会シンポジウムは、わたしが登壇することにしました。例年なら、わたしは、おもてなし役に徹するところですが、今年は、育児セラピストとしてみなさんとともに、10年先の世界観と価値観を共有したいのです。今号のコラムで書いた「これからの子育ては、“リ・ペアレンティング”の時代」とも直接つながる話をしようと思います。全国大会シンポジウムでの単独登壇は、はじめての機会ですが、そういうタイミングなのだと理解しています。
講演のタイトルは、今回の全国大会2023のテーマでもある
「子育て・保育・教育を、10年先へアップデートする」
です。今年は、講演をとおして価値観を共にしたうえで、対面会場とオンラインでみなさんと対話して、これからの10年で子どもたちに何をしてあげられるのかを見つけたいと思います。これまでとは少し違う感じの全国大会になりそうです。お楽しみにしてください!
優秀実践発表
ここからは、毎度同じことを繰り返しお伝えさせていただきます。
実践発表には、いつも発表者の視点で紡がれた物語があります。さまざまな登場人物が描かれ、出来事やアクシデントをとおして主人公が成長してゆきます。それを聴くだけでも、とても勉強になります。刺激になります。
さらに、これは「発表を聴く」機会であると同時に、みなさん一人ひとりが「これまでしてきた実践を言葉にして振り返る」機会でもあります。みずからも実践報告をした人が、他者の発表を聞くと、その人の物語がより深く、よりリアルに、より実用的に伝わります。
これまでの活動の区切りや振り返りとして、そして、これからの展望を描くため、「実践報告すること」は、この上なく大事な役割を果たしてくれます。言葉にしてまとめた時点で、大きな意味が立ち現れます。
さらに、それを発表という形で大勢の人にアウトプットする機会を得ると、何かのスイッチが入ったかのように、自分のまわりの状況が動き始めたり、必要な情報が入ってきたりします。実践報告には、そんな奥深い世界観が存在します。
これまでの発表者をみてきて、断言できます。
実践報告をしたことのない人は、ぜひ今年やってみてください。書くだけで、すでに大きなものが得られます。いまやっていることの価値が実感できます。そして、次にどこに進みたいのかという展望が見えてくることと思います。
報告をしたことのある方は、“その後”をつづってみてください。物語のつづきです。すると、自分が確実に前に進んでいることが実感できます。点と点は線でつながり、明確な展望が浮かび上がります。また例年と同じことを言いますが・・・
今年はぜひ、実践報告の段階から参加してみてはいかがでしょうか。
育児セラピスト全国交流会
毎年恒例のランチを介した「おしゃべり会」です。対面で会場に集った方たち、オンラインで参加の方たち、それぞれでグループになって、お互いの近況や、いま取り組んでいることなど、自由に話します。この場から、その後につながる関係性が、毎年生まれています。
全国大会は、講座を修了された方たちが、再び集い、しゃべり、刺激を受け、つながり合い、新しい関係をつくるための場です。
たまたま、同じグループになった人は、そうなる縁でつながっている人です。何かしら意味があります。ランチ交流会は、その入り口です。じつは、このあとにおこなわれる「お悩みスーパーバイズ」につながる導入の役割も担っています。
お悩みスーパーバイズ 2023
「お悩みスーパーバイズ」では、お互いの悩みに向き合います。全国大会のように、同じ思い、同じ志をもって、同じ学びを共有している仲間同士が集う場だからこそ、“安心安全の場”が形成できます。そのような場で、悩みを他者に打ち明ける、他者の悩みを聞く。いろんな人の考え方や捉え方に触れる。それは、人によって、刺激であったり、新たな気づきや解決であったり、あるいはセラピーになったりします。
ある人は、刺激をもらうことで、なえかけていたモチベーションに再び火が付くかもしれません。やりあぐねていたことの解決策を得る人がいるかもしれません。気落ちしていた心が、癒されるかもしれません。同じように悩んでいる人に出会い、「自分だけじゃなかった」と背中を押されるかもしれません。
わたしは、ここで、スーパーバイザーの役を、毎年させていただき、いつも感じています。ここでの「やりとり」が、わたしにとっても、みなさんとの関係性を深め、先の展望を持たせてくれ、心を和ませてくれる時間となっています。同時に、参加者のみなさんにとっても、そのような時間となっていることを実感しています。
とくに、今年は、基調講演で価値観を共有したあとにおこないます。10年先のことを、真剣に考える機会は、日常ではなかなかつくれません。「新時代」における子育て・保育・教育について、真剣に語り合ういつもとは違う「場」になると思います。
まだ、参加したことのない方は、ぜひ今年それを確かめに来ませんか?
経験者の方も、今年は一味違うスーパーバイズになりそうですよ。
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