育児セラピストが活躍する、心強い子育て支援のカタチ

現在、衣川さんは西宮市で子育て支援拠点事業の一環として子育てひろばを運営しています。運営母体は「どろんこKIDS運営」という個人経営の団体であり、その管理者代表として活動されています。育児セラピストとしての知識を武器に、地域の親子へサポートを行い、地域全体の子育て力を高めています。そんな活動をされている衣川さんの活動を紹介します。


異業種から子育て支援の道へ

衣川さんは現在62歳で、子育て支援の仕事に携わる前は、全く異なる業種で働かれていました。大学卒業後アパレル業界で勤務し、その後は家業のブティック経営に携わってきました。結婚・出産を機に専業主婦として10年間を過ごし、離婚後は身内の会社で病院の受付や総務業務を15年間担当。

その後、実家の庭を活用し、未就園児童を対象とした教室を始めたことが、子育て支援のキャリアの出発点となりました。当初、認可外保育施設や一時預かりとして運営する計画もありましたが、運営基準の厳しさから、主に保育園に通っていない専業主婦家庭の未就園児を預かる屋外あそびの教室として活動を始め、約12年間運営してきました。現在は西宮市の子育て支援拠点事業の一環として「子育てひろばKANKAN」という形に変わり、子育て支援を行っています。


理論を学び、説得力のある支援へ

2013年頃から本格的に子育て支援の仕事をする中で、お母さんたちとの関わりが増えました。しかし、保育士などの専門的な資格を持っておらず、育児や子育ての知識を体系的に学ぶ必要性を感じていました。そんな中、「アタッチメント」「愛着形成」という言葉に惹かれ、日本アタッチメント育児協会の育児セラピスト2級講座を受講。初めて学ぶ理論が多かったものの、子どもの成長過程を理論的に理解することで、これまでの知識の点と線がつながり、支援の現場でより説得力のあるアドバイスができるようになりました。「理論を知らなくても子育ては可能ですが、知識があると役立つ」と実感したそうです。


「これでよかったんだ」学びが支援の確信と自信に

さらなる学びを求めて育児セラピスト1級を取得し、その後、発達支援アドバイザーの講座を受講しました。受講した背景には、預かり教室の中で発達に特性のあるお子さんと毎年触れ合う機会があったことがきっかけでした。実際、教室に来る子どもたちの中には、自閉症と診断されている子や療育が必要な子、特定のこだわりを持つ子など、困りごとがあり、特別なサポートが求められる、何らかの発達の凹凸を持っている子が多くいました。そこで、より適切な支援の重要性を感じ、発達支援について体系的に学ぶことを決意しました。

「育児セラピスト1級」と「発達支援アドバイザー」の学びは、日々の子育て広場での活動に直結しています。「ハイハイが遅い、しない」「食べない」「イヤイヤ期」などの発達の悩みや、兄弟間のトラブル、生活の疑問まで、多岐にわたる相談に対応する中で、学んだ知識が大きな支えとなっています。それまで漠然としていた知識が明確になり、理論と実践が結びついたことで、「これでよかったんだ」「そういうことだったんだ」と確信を持てるようになりました。学びが現場で生かされることを実感できたことで、大きな自信にもつながったそうです。


「育児セラピスト」の肩書きが生む安心感と信頼

また、名札に「育児セラピスト 衣川」と記載していることが、親たちから「育児のプロ」として認識され、安心感を与える要素になっているかもしれないといいます。


「育児セラピスト」としての肩書きが、親たちの信頼につながり、気軽に相談できる環境づくりに役立っているといいます。時には「臨床心理士ですか?」と尋ねられることもあるそうですが、衣川さんはそれに対して「違うけれど、育児に関することなら何でもお話は聞きますよ」と自信を持って対応されています。「解決する」「答えを与える」というよりは、「聞きやすい相手でいる」関係性を築くことが大切だと感じていらっしゃいます。


子育てひろばKANKAN設立の背景

子育てひろばをつくろうと思ったきっかけは、地域に未就園児と親が交流できる場がなかったことです。近年、子どもの数が減り、公園で親同士が自然に繋がる機会も少なくなりました。未就園児といっても多くが保育園に通っており、どこにも所属していない1〜3歳児の親子が孤立しやすい状況でした。

また、教室で相談を受ける中、地域全体ではもっと悩みを抱える家庭が多いのではないかと考えるようになりました。そこで、市が募集する「子育てひろば」の運営に応募し、書類選考と面談や立ち入り検査を経て無事に採択されました。


親子がのびのび過ごせる広い遊び場

KANKANの大きな魅力の一つは、広いスペースで思い切り遊べることです。走り回ったり、「大声を出してもいい」という方針があるため、子どもたちが伸び伸びと遊べる環境を提供しています。

さらに、子ども同士の小さな喧嘩や物の取り合いも成長の一環として捉えています。幼稚園に入る前に「思い通りにならない」「譲る」といった経験をすることは、社会性を育む上で重要です。そのため、スタッフは適切な範囲で子どもたちの関わりを見守りながら、親にもその重要性を伝えています。


パパたちの頼れる支援の場

最近では、父親の育児参加が進んでおり、KANKANにも多くのパパたちが訪れます。特に「パパのベビーマッサージ」は人気があり、すぐに予約が埋まるほどです。

また、ママが美容院に行く間、パパが子どもを連れてくることもあり、地域の「駆け込み寺」として機能しています。「KANKANに行っておけばなんとかなる」「パパお手上げになったらKANKANに走って」と言われているそうです。

育児の悩みや心配を地域の力で支える

KANKANでは、親の気持ちに寄り添いながら、適切な距離感でサポートすることを大切にしています。頑張りすぎるママには「パパにも頼ろうね」、上手に頼れるママには「感謝を伝えようね」とアドバイス。パパには「ママが喜んでいるよ」など、夫婦の関係がより良くなるような言葉を伝えています。

また、必要に応じて市や児童相談所、保健師などと連携をとり、専門的な支援が受けられるようにサポートしています。西宮市では「子育てコンシェルジュ」という専門職員が定期的に訪れ、保育園の相談や進路に関するアドバイスを提供しており、KANKANもこのシステムと連携しています。

今後の展望


子育て支援活動を開始してからの1年間を振り返り感じたことは、私だけでなくスタッフ全員、これまでの保育スキルだけではカバーしきれない部分が多いため、求められるスキルや対応力・人間力を高めることに注力したいと考えています。

また、「育児セラピスト」の資格を活かし、来年度からは月3回の定期的な講座を実施する予定。この講座では、自由な形式で親たちが集まり、悩みやテーマを共有し合える場を提供し、参加者が自分のペースで学び合える環境を作ります。参加者が自由に出入りでき、子どもたちが遊ぶ中で会話が進むスタイルにすることで、リラックスした雰囲気で情報交換ができる場を作っていきます。

今後も、地域の子育てを支える存在として、子育てひろばをより充実させていくとともに、新たな支援の形を模索しながら活動を続けていくことを目指しています。


衣川 由理さん(兵庫県)どろんこKIDS運営/子育てひろばKANKAN管理者代表

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