今、社会に求められているアタッチメントの力
淑徳短期大学 「育児学」を開設
(2013/11/25)
「ベビーマッサージインストラクター」と「育児セラピスト」養成/学生に自信つけ現場へ送り出す
今、保育士をめぐる子育て環境が大きく変化し、乳幼児だけでなく家庭支援も必要な時代になってきた。このため、親と子のアタッチメント(愛着関係)は保育士養成の場でも重要なテーマになっている。育児学という科目の中でベビーマッサージインストラクターと育児セラピストを養成している淑徳短期大学の小野寺利幸事務局長に同大学での取り組みを聞いた。
淑徳短期大学は2010年、日本アタッチメント育児協会から全国で初めて育児セラピスト養成校に認定された。それを機に、保育士や幼稚園教諭を養成するこども学科に「育児学」を開設し、子育ての現場で活かせる知識やベビーマッサージの技術を指導している。
「本学では1963年から保育士を養成しています。保育園だけでなく、乳児院や養護施設で働く保育士も養成してきた関係から、福祉の観点を持った保育士の養成に取り組んできたというのが本学の特色です。近年、虐待、育児放棄や子育てに困っている方の支援も保育士の役割として強く求められています。育児学を開設したのは、アタッチメントの考え方などから学生が自信を持って現場に出ていけるスキルをプラスしたいと考えたからです」と小野寺氏は語る。
育児学は、日本アタッチメント育児協会顧問理事も務める細井香准教授(現横浜創英大学准教授・医学博士)を中心に開講。学生は、講義と実技、演習など計15回の90分授業を受け、筆記試験、実技試験にパスして「ABMベビーマッサージインストラクター」と「育児セラピスト1級」の資格を得る。
「育児学は履修希望が多く、本年はこども学科の学生約200人が前期と後期に分かれて受講しています。育児学を学んだ後に保育実習に行くと、自信を持って園児と親に接することができるようです。また、保育士を目指す理由やどんな保育をしたいかが、より具体的に語れるようになったと聞きます。本学の建学の精神“共生”の考え方を身につけ、社会に貢献できる保育者になってほしいと願っています」
同大学は地域の子育て中の家族に子育て支援の場も提供している。3年前から同大学ボランティアセンターで「子育ち応援隊ぷち・ぴち」を開設。「子育て支援相談」に加え、ベビーマッサージ教室、わらべ歌・絵本の読み聞かせやパネルシアターなど親子で楽しむ活動を展開している。中でも毎月1回開催のベビーマッサージ教室はキャンセル待ちが出るほどの人気だ。昨年「ベビマサークル」ができ、講師のアシスタントだけでなく教室の運営にも学生が積極的に関わっている。
「ベビーマッサージを通じて親の悩みを聞き、それに対する講師のアドバイスを身近で聞けることは、学生にとって保育者としてのスキルを学ぶ貴重な実践の場と言えると思います」
「育児学」履修、実践的スキルと知識学ぶ
大学での”人材”養成
今号では、育成をテーマに話を進めてみたいと思う。(社)日本アタッチメント育児協会では、現在二校の大学を養成校と認定し、保育士や看護師、助産師を目指す学生に対して、カリキュラムを提供するとともに、資格認定を行っている。
最初の認定養成校である淑徳短期大学では、保育士養成課程のカリキュラムの中に、育児学を設置し、ABMベビーマッサージインストラクター資格と育児セラピスト1級資格の内容を、講義で教え、単位認定をして、さらに認定試験を行い、資格認定をする仕組みを作った。これは、日本でも初めての試みであった。
この試みを遂行するに当たって、淑徳短期大学と日本アタッチメント育児協会の間で、あるビジョンを共有した。「社会の役に立つ保育士を育てよう」「学生たちに自信を持って社会に出られるスキルと知識を与えよう」「保育園や幼稚園がこぞってほしがる人財を育てよう」
導入一年目は、まさに試行錯誤だった。そもそも、育児経験もない、現場経験もない学生たちに「育児の専門家になろう!」と言う訳だから、学生が混乱するのも無理はない。最初は、あからさまにやる気のない態度を見せる学生もいた。それでも、講義の現場を振り返り、改良を加え、また講義して、その繰り返しの中で、学生たちに知識とスキルに裏付けされた自信を与えられるように「育児学」を進化させた。
そうした苦労の甲斐あって、育児学を履修した多くの学生が、就職一年目からベビーマッサージ教室を開いて、地域の育児支援に貢献するような即戦力に育った。そして、現在、淑徳短期大学では、「育児学」は、ほとんどの学生が履修を希望する人気科目となった。この流れは、東京から大阪の宝塚大学 助産師学科へと波及した。
学生の段階でABMベビーマッサージや育児セラピストのような、社会から必要とされる実戦的なスキルと知識を身につけておくことは、大きな自信となる。そうした自信は、これからの子育て環境を担う人財として最も重要な資質の一つであると、私は考える。