第15回 育児セラピスト全国大会in2024 お悩みSV 『「噛みつき」をする2歳半の男の子に、どのように関わればよいでしょうか?』

恒例!お悩みスーパーバイズ 2024

スーパーバイズとは「今抱えている問題・悩み」をグループごとに話し合ってもらい、それに対して当協会理事長の廣島のスーパーバイズのもと、参加者全員からも意見をもらう、というものです。

「噛みつき」をする2歳半の男の子に、どのように関わればよいでしょうか?

■オンライン参加の篠﨑さんからのご質問です。
さきほど、グループでとても盛り上がりました。わたしは、小児科の看護師をしています。いまは、病児保育室で勤務しています。風邪をひいて登園できない子が、一時的に来るところです。となりの保育園が併設している施設なので、病児保育が必要な園児がいないときは、保育園のヘルプに入ります。
そこの2歳半の男の子が、毎日のように、おともだちに噛みついてしまい、大きな問題になっています。わたし自身は、昨日のスキルアップ講座や、今日の宮島先生のお話しを聞いていて、「厳しく叱る」というのは、違うと感じています。では、どのようにしたら、その子にとって良い関わりができるのか、と考えると、その答えが見つからずモヤモヤしているので、アドバイスをお願いします。

『厳しく叱るのは違う』という直観は、正しい

グループの方たちからのアドバイスでは、「叱るのは違うよね」という意見がありました。また、いつも同じ子が噛みつかれているため、「噛みつかれる方にも、何かしらの原因があったのかもしれない」とか、「問題の渦中に入っちゃう子はいるよね」などの視点ももらいました。ちょっと危ないなと思う瞬間があるので、それを逃さずに、噛みつきが起こる前に防いであげられないか?あるいは、その子がパニックになっているときに、その場で言って聞かせるのではなく、ふだん落ちついているときに、「〇〇のときは、こうするといいよね」と好ましい行動を言って聞かせることもできるのではないか。そんなアドバイスをもらいました。

グループの方のアドバイスは、どれも適格だと思います。とくに、「噛みつきが起こる前に防ぐ」とか「好ましい行動を言って聞かせる」という対応は、今日の宮島先生がお話しされていた応用行動分析にもつながる考えだと思います。同じく、宮島先生のお話に「否定語を使わない」というのがありましたが、まさにこのケースで当てはまります。『厳しく叱るのは違う』という篠﨑さんの直観は、その意味で正しいです。

「噛みつき」行動の本当の意味とは?

そのうえで、話しの取っ掛かりとして、わたしが、こんな質問をしました。

「その子は、どんなシチュエーションで噛みついてしまうのですか?」すると・・・

「自分の思いどおりにならなくて、手当たり次第に噛みつきます。先生であることもあるし、近くにいた子どもの場合もあります。おもちゃに噛みつくこともあります。」

ここで、この子の「噛みつき行動」について考えてみましょう。まず「噛みつき」の衝動を引き起こす一番の要因は、「おっぱいへの郷愁」です。つまり、0・1歳の時に「もっとおっぱいを吸いたかった」という未練や郷愁が、今も残っているのです。心の中に、その時の「さみしい」気持ちを抱え続けているのです。それが、幼児期の「噛みつき」として表面化します。

2歳半という年齢を考えると、本当は、ふたたびお母さんがおっぱいを吸わせてあげるのが、一番良いのでしょう。しかし、これはお母さんの卒乳や断乳に対する考えもあると思いますので、保育者の努力だけではどうすることもできません。

保育者として、この子に何がしてあげられるのか?

では、保育者の立場で出来ることを考えましょう。発達心理学では、「おっぱいが足りていない」ので、「おっぱいを吸う」段階まで戻って、その子に対応してあげる、という考え方をします。つまり、0歳児にしてあげることを、その子にしてあげるということです。

これがわかれば、具体的な対応は簡単です。「ギューっとしてあげる」、「ベビーマッサージをしてあげる」といったことになります。服の上からでも効果は充分にあります。その際は、さするのではなく、ポンポンと手を当ててあげるようにします。その際に、誰がマッサージするかが重要です。できたら、その子が一番身近に感じている担任の先生などが望ましいです。

この子の「さみしい」を包みこむ対応

もし、その子が、次に噛みついてしまった時は、本人もおそらくパニック状態だと思います。そんなときは、できれば前から「ギュー」してあげてください。この時の「ギュー」は、愛情ある包み込みによって、パニック状態を抑える意味がありますので、少し強めにしてもよいでしょう。

そのうえで「どうした?なにが嫌だった?」と声かけしたあと、子どもが落ち着いてきたら、「でも〇〇くんが噛みついたら、先生かなしくなっちゃうな~」などと声かけしてください。

前半の声かけは、無条件に受容したうえで、言い分を聞く対応です。そして後半の声かけは、噛みつきを抑制・制御するための布石です。つづけて「もし嫌な気持ちになったときは、先生とギューしようよ!そうしたら、嫌な気持ちがとんで行って、楽しい気持ちになっちゃうよ!」などと「楽しい」声かけします。これが、ポジティブな約束になります。この約束は、この子が日常で「ギュー」されたり、マッサージをされたりすることで、充分有効に機能します。

未満児への「しつけ」は、恐怖とトラウマを与えるだけ

ちなみに、「強く言って聞かせる」のが間違いなのは、宮島先生もご指摘されていたとおりです。この子は、2歳半ですので、強い口調や厳しい叱りは、恐怖しか与えません。「叱る」が機能するのは、少なくとも3歳を過ぎてからです。恐怖は、マイナスにしか作用しません。本当に危険な行動だった場合、3歳を過ぎていたら強めに叱ることもあります。しかし3歳未満なら、むしろ気をそらす程度にして、そういう状況が起きないようにすることが重要です。「道路へ飛び出したらダメ!」と強くいっても、その原因と結果の論理は伝わりません。そういう認知機能はまだ育っていないのです。

保育士のちょっとした対応で、子どもも親も大きく変わる

この子は、まだ2歳半なので、この問題行動がこれから良転していくことは十分に可能です。保育士さんのちょっとした対応だけでも、大きく変わります。さらに、ここで起きた良い変化は、お母さんにも影響します。その際、「こうしたら、こう良くなった」ということをお母さんに伝えます。「いま、じつは〇〇くんに、毎日マッサージしているんですよ。マッサージするようになってから、〇〇くん、本当に落ち着くようになったんですよ。」「簡単なのでお母さんも、やってみませんか?こんどやり方お教えしますよ。」といった感じで、お母さんを巻き込むことで、この子の家での環境も良くなることが期待できます。

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