第15回 育児セラピスト全国大会in2024 優秀実践者発表 子育て支援部門 岩野しのぶさん

保育士から異業種へ、そして再び保育の道へ

岩野さんは45年前、保育士・幼稚園教諭の資格を取得し、福岡市の認可保育園で保育士としてキャリアをスタートさせました。その後、結婚・出産を経て育児に専念しますが、やがて子育てをしながら社会復帰を考えるようになりました。3人目の出産後、保育士としてのキャリアを再開する選択肢も考えましたが、「一般企業で自分を試してみたい」という思いがあったため、異業種の保険業界へ進まれました。保険の営業職を10年間勤めた後、再び保育士の道に戻る決意を固めました。再挑戦したのは、子どもと向き合う仕事が自分の本分だと感じたからです。

ベビーマッサージと子育て支援活動の開始

保育と幼児教育に携わる中で、岩野さんはベビーマッサージの重要性に気づくようになりました。ちょうどその頃、友人を通じて、伊万里市のイベントでベビーマッサージ教室の話が持ち上がったのを機に、日本アタッチメント育児協会の本部のあった名古屋まで出向いて、アタッチメント・ベビーマッサージの資格を取得しました。このイベントは当初、一回限りで終わる予定だったのですが、参加者から好評だったため定期化されることになりました。これが現在も続いており、13年目を迎えます。

ベビーマッサージ教室を通じて、岩野さんは「アタッチメント理論」と「安全基地」の考え方を広め、親子の絆を深めることの大切さを伝えています。

「ベビーマッサージは、ただのマッサージではなく、親子の絆を深める大切なコミュニケーションの手段である」と岩野さんは強調します。乳幼児期の子どもの育ちにおいて「アタッチメント(愛着)」がいかに重要であるかを、お母さんに実感してもらうとともに、レッスンを通して「触れることの大切さ」を伝えています。

産後うつのお母さん支援として「ぞうさんサロン」立ち上げ

ベビーマッサージ教室を立ち上げた1年後、同じ伊万里市から委託を受けた別事業として、産後うつのお母さん支援を目的とした親子サロン「ぞうさんサロン」を立ち上げました。ここでは、母親が孤立することなく、他の親たちと繋がり、支え合う場を提供しています。特に、1人(ワンオペ)子育てが負担になっているお母さんたちにとって、安心して集える場所になっています。

「ぞうさんサロン」の特徴は、その気軽さです。参加するのに予約は必要なく、いつでも訪れることができるようにしています。この気軽さが、お母さんたちにとって大きな魅力となっています。また、サロンは、お母さんたちがリラックスできる空間となっており、ベビーマッサージや子育てアドバイスを提供しています。

孫との触れ合いと心の成長

岩野さんは、8人の孫を持つおばあちゃんでもあります。孫たちには全員、みずからベビーマッサージをして、触れ合うことの大切さを伝えてきました。孫たちが大きくなった今も、マッサージは大切な役割を果たしています。思春期に差しかかっても、マッサージを求めてくることがあるので、頭や顔、足をマッサージして、孫との心のつながりを深めています。

特に印象深かったのは、早産で生まれた孫がICUに入院していたときのことです。親子の絆を強めるために、退院準備の際に行ったカンガルーケアを通して、赤ちゃんが見せた笑顔が、岩野さんにとって忘れられない思い出となっています。こうした実体験を教室で参加者に伝え、「触れること」の重要性を伝えています。

地域への貢献と教室の継続

現在、岩野さんは企業主導型認可保育園で園長として働きながら、ベビーマッサージ教室を続けています。「参加者が1人でも続ける」という強い信念を胸に、教室を立ち上げ、今もその活動を継続しています。

参加者から感謝の言葉を受ける度に、元気をもらい、それが活動を続ける原動力となっています。また、子どもたちを見守ることで、子育て支援活動における深い実感を得ています。

岩野さんが最も大切にしているのは、「心の土台作り」としての触れ合いの重要性です。肌に触れることは、単に身体的なケアにとどまらず、心を育む行為であると岩野さんは確信しています。「皮膚は第2の脳」とも言われるように、親子の触れ合いは、子どもの情緒や発達に深く関与しています。子どもたちが成長する過程で「肌に触れること」が心の発達にどれほど影響を与えるか、その重要性を、わかりやすく、おしゃべり感覚で伝えています。「今、この時から、触れてあげましょう。人間の土台づくりをしていますよ」と声かけをして、お母さんたちに、触れることの大切さを届けています。

今後の展望と未来への意欲

「70歳を過ぎてもこの活動を続けたい」「これからもお母さんの心に寄り添い、手助けをしていきたい」と語る岩野さんは今後も、多くの親子に温かな手を差し伸べ、子育ての力強いサポートを続けていくことでしょう。


廣島からひとこと

「地域のハリキリおばあちゃん」として活動する岩野さんが、子育て支援に取り組む姿が印象的でした。「第2の人生」として、子育て支援をライフワークとし、地域に貢献して、イキイキとしている岩野さんの話を聞いて、私も子育て支援の重要性と、その活動がもたらす喜びを再確認しました。

岩野さんの発表で印象深かったのは、8人のお孫さん全員がベビーマッサージを経験しているということです。思春期に差し掛かった孫たちが「顔や足をマッサージしてほしい」と祖母にリクエストする姿は、家族の絆を深める素晴らしいエピソードです。

岩野さんが孫たちや、ベビーマッサージ教室に通うたくさんの親子と築いてきた「触れ合いの関係」は、ポジティブエネルギーの交換であり、まさに幸せの象徴です。「第2の人生」において、このような充実感を得られる活動にいそしむことは、地域貢献というだけでなく、生きがいと未来への展望をもたらします。

私も人生の後半に入った一人として、岩野さんのように、子育て支援を中心にした第2の人生を送ろうと思ったとともに、そのすばらしさを伝えてゆきたいと、あらためて感じました。


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