不登校:子どもの『いきたくない!』にどう対応する?④

不登校を解決するために知っておきたいこと


では、子どもが「行きたくない!」と言ったときに、どうすればよいのか?不登校の状態になったとき、親や先生、まわりの大人には何ができるのか?それを考えてみましょう。これを、つぎの4つの側面から検討していこうと思います。


①「初動が大事」

最初の一手によって、その後の方向性が決まってしまいます。ここで、下手を打つと事態は悪化します。

子どもが「行きたくない!」と言ってきたその時に、必要なことは何か。それは「充分に時間を割く」ことです。これまでに話してきたとおり、“話を聞ききる”ことと、“一緒に過ごしきる”ことが、最も必要な最初の一手です。そのための「時間をつくる」ことです。それは、仕事を休む覚悟かもしれません。その日の約束をキャンセルすることかもしれません。やろうと思っていたことを先送りにすることかもしれません。いずれにしても、子どもが「行きたくない!」を最初に切り出してきたその瞬間は、他のどれよりも優先順位の高い出来事です。その覚悟をもってしまえば、起きていることそのものは、たいしたことではありません。誰にでもあることです。

このとき、もっともやってはいけないことは、「その日はとりあえず学校に行かせる」ことです。じつは、最初の「行きたくない!」の段階だと、無理にでも学校に行かせることはできてしまいます。

子どもの方も、本当の閾値(限界点)には達していないので、少しの余力があります。それを使えば、その日あるいは数日は、学校に行くことができてしまうのです。しかし早晩限界は訪れます。そうなってからの「行きたくない!」は、そのまま不登校につながり得ます。そうなると、余力は使い果たしてしまっていますので、最初の一手は打てません。子どもは話をすることさえ出来ない、いっしょに時間を過ごすことさえ楽しめない状態かもしれないのです。

そうなると、しばらくの間エネルギーが貯まるまで、黙って見守るしかなくなります。数日してエネルギーが充電できたとしても、本当の問題が解決されることなく、学校へ行ってしまえば、また同じことの繰り返しです。やがてその繰り返しが30回をすぎれば、本当の不登校になってしまうのです。

くれぐれも、子どもが「行きたくない!」と言ってきたその瞬間の初動を大事にしてください。そのためには、事前に対応をシミュレーションしておくことが、もっとも重要です。子どもの「行きたくない!」は、ある日突然やってきます。もしそうなった時に、すぐに仕事を休む、あるいは予定をキャンセルする覚悟をしておいてください。そして、ひとこと「いいよ!」と言ってあげるのだと、心に決めておいてください。あらかじめ準備しておけば、これは、たいしたことではないのです。


②「深層に横たわる本質」

直接関連性のないことや、今の問題ではないこと、あるいはお子さんとの関係性そのものなどにも目をやってみてください。

例えば、スマホやゲームが脳と体にあたえる影響が、問題を悪化させているかもしれません。そもそも、スマホやゲームの液晶画面は、物理的には“光の点滅の集合体” です。音は、電気信号です。われわれ大人は、画面に映る光の点滅の繰り返しに、これまで重ねてきた実体験を関連付けることで、映像に変換したり、ストーリーを想像したりしています。単なる電気信号に、実際の自然の音や楽器が奏でる音を関連付けて、音楽として認識します。しかし子どもの場合、そうして関連付けるための「経験」が圧倒的に足りていません。脳の中で、現実との関連付けが薄いまま、連続する光の点滅と電子音に晒されるわけです。それが何時間も続くのです。少なくとも、その脳と体へのストレスは、まだ成長過程の子どもにとって、決して小さなものではないことは、想像に難くありません。

それだけではありません。不登校の子どもにとって、スマホやゲームは、昼夜逆転を引き起こす要因になります。学校に行かなければ、子どもは、夜通しスマホやゲームに興じ、朝方に寝る生活が可能になります。そうなると、太陽光を浴びる機会が激減します。それによって、セロトニンの分泌が妨げられます。セロトニンは、不足するとイライラや不安・恐怖といったストレスを感じやすくなります。 意欲や集中力が低下し、気分は落ち込み、心は不安定になります。さらに、太陽光を浴びない生活は、ビタミンD不足を招き、免疫力が低下します。そうして体も不調になってゆきます。これらの悪影響は、目に見えないだけでなく、認知しにくいので、とてもやっかいなのです。

あるいは、不登校の原因の奥底に、発達課題のやり残しがある場合も考えられます。問題として表面化しているのは、小学3年生の今だけど、その根っこには、幼児期に満たされなかった思いがある、というケースがあります。こうした思いは、思春期や大人にまで持ち越されることだってあります。

乳児期に自己肯定感が実感できなかった、幼児期に自律性を獲得できていないままだった、児童期に自主性を発揮しないままきてしまった・・・この話は、詳しく話そうと思うと数時間を要するので、ここでは、発達課題としておきますが、これらは、本来ひとつを獲得してから、つぎの課題へと順番に進まなければなりません。それを飛び級して次へ進んでしまっていると、なにかストレスやプレッシャーがかかった時に、揺り戻しが起きることがあります。いま起きていることは、それが原因かもしれないのです。

また、お子さんのSOSの矛先は、学校ではなく、本当はお母さんやお父さんとの関係性なのかもしれません。なんでも自由にやらせ過ぎて「放任」になっていたり、逆になんでも指図してしまって「支配」になっていたりすることがあります。それが、子どもにとって“見えないストレス”になっているかもしれません。あるいは、その子にとって、親が思っている以上にコミュニケーションや関わりが足りていない状態なのかもしれません。

「もしかしたら・・・」という問いを、自分に投げかけてみてください。それが解決の糸口になることもあります。


③「居場所感のなさ」

お子さんは、学校に居場所を失っているのかもしれません。その原因は、子どもによってさまざまです。

例えば、発達障害や自閉症のお子さんは、そもそも「居場所感をみいだせる場所が少ない」うえに、「居場所感のない状態にストレスを感じやすい」という特徴があります。つまり、特定の原因などではなく、その子の特徴として、学校に居場所を見いだせないのかもしれません。この場合、「居場所は学校だけではない」と考える必要がでてきます。

ちょうど1番目の自閉症の男の子の事例がそうです。お母さんは、よく勉強されている方なので、学校以外の居場所を作ることを重視して、フリースクールを当初から選択肢に入れておられました。この子の場合は、最終的に学校とフリースクールの両方を経験することで、それぞれで自分にとって良いところ、悪いところを、整理することができました。そうして納得できたことで、「学校のほうが自分にメリットが多い」という居場所感を見出したわけです。

あるいは、「みんなと一緒にいるのがつらい」と思えて、居場所感を失ってしまう何かがある場合もあるでしょう。わかりやすいケースでは、いじめや人間関係、何かに対する苦手意識などがあります。これらは、特定の要因を取り除けば解決します。

そう簡単にはいかないケースもあります。それが、自己肯定感に起因する要因です。「自分なんか居ない方がいいんだ」「自分は存在する価値すらない」といった思考に囚われてしまって、他の生徒と過ごすのが辛くなってしまい、学校に居場所を見出せなくなってしまうのです。この場合には、先に述べた自己肯定感の獲得という発達課題に立ち戻る必要があります。


④「関節リスク要因」

学校とは関係ないところで不登校につながり得る間接的なリスク要因を知っておいてください。

ここで挙げている「私立に入れる」「塾に行かせる」「習いごとをする」について、どれも否定するつもりはありません。ただ、親御さんの取り組み方や、お子さんのタイプによっては、大きなストレスやプレッシャーとなってしまい、それが不登校につながり得るという話です。これらが、悪いと言いたいわけではありません。しかし、同時に親御さんの「思い」がエスカレートしてしまった時には、お子さんを潰しかねないのも事実です。

私立に入れるためには、お受験をします。その過程で、子どもは、たくさんの期待をかけられ、成績を問われ、勉強を強いられ、やがて閾値を超えてしまうことはあり得ます。逆に、1番目の子のように、自分の特徴を理解し、それに合った校風の学校を選ぶために、お受験をするなら、そうはならないでしょう。

お受験して私立に入れば安心ではありません。不登校は、誰にでも起こり得ます。その時に、苦労して入れた私立の場合、撤退障壁がとても高いことは考慮しなければなりません。親も子も頑張って受験して入った学校です。お金も時間も、それなりに費やしています。それが、子どもに合っていなかったとわかった時、すぐに学校を変わったり、フリースクールに替えたりするのには、とても大きな覚悟と葛藤をともなうでしょう。

あるいは、私立は、一般的に同じくらいの学力、同じような暮らしぶりの家庭の子どもで構成されていることが多いでしょう。また、少数精鋭の方針で学年に1クラスという構成も少なくありません。そのような環境下で、クラスの子と人間関係が悪くなったとき、逃げ場が見いだせないかもしれません。

塾に行くことで、「成績がよくなければならない」という強迫観念を持ってしまうこともあり得ます。「塾に行ってるのだから・・・」というのが、プレッシャーになってしまうのです。実際問題、塾に行けば、誰でもその科目の成績がよくなるわけではありません。勉強には、向き不向きがあるのです。

習いごとにも同じようなことが言えます。本人がモチベーションを持っているなら問題はありません。しかし、親が無理やり行かせていたり、やめさせてもらえない状態で、つづけていたりすると、やはり強迫観念になったり、自信の喪失になったりして、それが自己肯定感の揺らぎにつながることがあります。

こうした、直接は関係のない要素も、「もしや」という観点から検討してみる必要があります。


次ページ「⑤親は、結局どうしたらいいの?」へ続く

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