アタッチメントの新たな展開

アタッチメントの新たな展開

「アタッチメント」は、この数年で(2020年現在)、新たな展開をむかえています。そのカギとなるのが「アロマザリング」。簡単に言えば、いつも世話してくれる「複数の養育者による関わり」のことです。

ボウルビイによる、もともとの考え方は、母親に代表される「特定のひとりの養育者」との関わりの重要性でした。原理原則として、これが変わりないことは、言うまでもありません。しかし、それだけでは、子育てそのものが成立しない現実があります。

お母さんひとりで、子育てをすることには、限界があります。そこで、お母さんのほかに、子育てに関わってくれる特定の他者の必要性が注目されはじめています。

よく考えてみると、これは特別なことではないように思います。“お母さんが子育てをして、お父さんが仕事で稼いでくる” という性別役割分担の上で、専業主婦という言葉が生まれたのは、じつは高度経済成長期のころ、1960年代のことです。それ以前は、「みんなで子育てをしていた」のであり、男女共働きが基本でした。このことは、育児セラピスト1級で、10年前から説いていることですので、なんら目新しい考えではありません。

ところで、「特定のひとりの養育者」は、日本で、性別役割分担のもとでは成立してきたと考えられます。しかし、バブルは崩壊し経済成長にかげりが見えてきます。収入源を補うために、女性は働くようになります。さらに、インターネットの普及によって、女性の社会進出は加速します。そんな現代では、高度経済成長期の常識は、もはや幻です。いまや「ワーキングマザー」という言葉が死語となるくらい、母親が働くのは普通のことです。

現代においては、もはや「特定のひとりの養育者」であるお母さんひとりで子育てをするのは、無理があります。なぜなら、「働くこと」と「子育て」は、トレードオフの関係にあるからです。この原則は、太古の昔から変わりません。だから、共働きが基本だった時代には、社会で子育てをしていました。

これについて、サラ・ハーディーは、ヒトを『協力して子育てする種』と表現しています。同時に、「働く母にとって真の足かせは、信頼がおけて、意欲があって、長期間世話してくれる母替わりを見つけて協力を得ることの難しさだ」とも言っています。彼女は、ボウルビイのアタッチメント理論に多大な影響を受けた人類学者です。

そして「幼児を共同で世話する霊長類の種では、幼児の発育が早く、母親は生涯でより多くの子を産み、生き延びさせられる。」と結論付け、こんな共同養育の例をしめしています。

「フィリピンの狩猟採集民族アグタ族で子どもが生まれると、その場にいる者全員が抱っこしたり、寄り添ったり、匂いを嗅いだり、見とれたりするまで、幼児は順繰りに渡される…。こうして、子どもの最初の体験は、血縁や友人の共同体についてのものとなる。」

生まれたときの儀式をとおして、赤ちゃんを「共同体のもの」としているわけです。それによって、「信頼がおけて、意欲があって、長期間世話してくれる母替わり」の役割を、共同体が担っているということです。

わたしは、ボウルビイのアタッチメント理論の新たな展開は、ここにありそうな気がしています。くどいようですが、「仕事」と「子育て」は、いつの世でもトレードオフなので、共働きが当たり前の現代で、お母さんひとりが子育てを担う「特定のひとりの養育者」を成立させることは難しいでしょう。必然的に「アロマザリング(複数の養育者による関わり)」の出番となります。

ここでふたたび、サラ・ハーディーの言葉『協力して子育てする種』とアグタ族です。人類学の見地からヒトは、本来そのようにできていると言うならば、アロマザリングが「子育ての理想のカタチ」として機能する可能性は、期待が持てます。

その核となるのは、「信頼がおけて、意欲があって、長期間世話してくれる母替わり」の存在です。そういえば、われわれの中には、そんな方がたくさんいるではありませんか。わたしは、そんなみなさんとともに、『アタッチメントの未来』を切り拓いていけるのではないかと期待し、密かにワクワクしている次第です。

一般社団法人 日本アタッチメント育児協会
理事長 廣島大三

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ