第15回育児セラピスト全国大会in2024 アタッチメント・ベビーマッサージ 全面リニューアル
誕生から18年を迎える今年(2025年)、アタッチメント・ベビーマッサージのカリキュラムを全面的にリニューアルしたのが、今年のスキルアップ講座となりました。この新カリキュラムの制作に取り掛かった当初は、基本路線は変わらず、時代性を加味した加筆修正をする方針でした。
ところが、取り掛かってみると、新カリキュラムは、これまでとはレイヤーが一段上がるような内容となりました。実際に、その講義を終えたわたしは、アタッチメントの解釈と、ベビーマッサージのあり様そのものが、同時にリニューアルされたことに気づいてしまっています。
「アタッチメント理論」ベビーマッサージ・リニューアルの始まりはここから
最初に伝えたのは、アタッチメントにおける「くっつく」は、一般的なスキンシップと区別して捉えるということです。スキンシップは、肌と肌の触れ合いにより親密感や帰属感が高まる一連の「行為」を表します。それに対して、アタッチメントにおける「くっつく」は、愛情が込められた「くっつき」によって、安心感や自己肯定感といったパーソナリティの土台が育まれる「心理的作用」です。両者は似ているようですが、表している概念のレイヤーが違うのです。
さらに、ジョン・ボウルビィが、心理学に生物学的視点を取り入れた事実についても触れました。これは、今日までアタッチメント理論が評価され続けてきた要因の一つです。この視点を与えたのが、生物学者アドルフ・ポルトマンの「生理的早産」の概念でした。『人間の赤ちゃんは、長い乳児期を、母親からの世話を受けて育つ。この間に社会的、文化的、精神的な学習をする。そうして、ヒトは進化の頂点に達した。』つまりこれは、乳児期のアタッチメントの営みのことを指しています。また、「アタッチメントとは、そもそも赤ちゃんによる危機回避行動である」というボウルビィの主張も、こうした生物学的視点を背景とするものです。
そのほか、新カリキュラムでは、アタッチメントスタイルについても扱っています。パーソナリティの傾向として、「安定型」のアタッチメントと「不安定型」のアタッチメントについて取り上げ、さらにその形成のメカニズムに触れました。
「発達心理学」は、子育てに何ができる?
あらたにエリク・エリクソンの「ライフサイクル理論」を取り入れ、子どもの発達を概観できるようにしました。ここでは「発達課題」という重要な概念を紹介しました。これは、人生のそれぞれの段階で訪れる課題で、前の課題を獲得できると、つぎの課題にすすめるというものです。目の前の発達課題をクリアしないまま、つぎの発達段階に進んでしまうと、発達に歪みが生じてしまいます。この歪みが「生きにくさ」となって表れます。この発達課題を、乳児期(0・1歳)・幼児期(1~3歳)・児童期(3~6歳)のそれぞれの発達段階別に扱っています。
新カリキュラムの発達心理学では、教育業界で注目されている「非認知スキル」についても扱っています。「非認知スキルとは何ぞや?」から始まり、非認知スキルを構成する5つの要素、そしてジェームズ・ヘックマンが唱える非認知スキルを育てる教育の経済的効果について解説しました。
それだけでなく、非認知スキルの育ちを左右する「体験」の考え方・与え方についても扱いました。ここでは、一般的に言う「体験」ではなく、ドイツ語の“Erlebnis(エアレープニス)”の視点における現象学的体験の文脈で体験を紐解き、それが、実際の幼児期の体験とどのように関連するのかを解説しました。さらに、教育投資としての様々な「体験」について触れ、その「非認知スキルの総仕上げ」として、海外体験をご紹介しました。
ベビーマッサージがあたりまえとなった今だから、知っておかなければならないこと
いよいよ、リニューアルしたアタッチメント・ベビーマッサージの内容に入ります。と言っても、基本的な考え方やメソッドは普遍のものですので、変わりはありません。
今回のメインは、ベビーマッサージが世の中のあたりまえになった今、インストラクターとして新たに知っておかなければならないことについて、まとめました。 例えば、食物アレルギーやアトピー性皮膚炎についての知見は、17年前と今では、変わってきています。また、当協会のベビーマッサージは、アーユルヴェーダに基づいています。このアーユルヴェーダの基本概論を学び、さらにアーユルヴェーダ・マッサージやオイルについても学び直しました。
さらに、ベビーマッサージの法的解釈について、これまでのカリキュラムで扱ってきた内容に加え、ちまたで聞く「マッサージ」という言葉の使用や「マッサージの施術」に関する実際の現場での事例に合わせた解釈を学びました。
低出生体重児・発達障がい児にも行える多様なベビーマッサージ
今回の新カリキュラムでは、新たに「ダイバーシティなベビーマッサージ」と称して、低出生体重児・発達障がい児にも行える多様なベビーマッサージの手法も紹介しています。
「ベビーマッサージは、生後何か月から行うことができますか?」
「保育器の赤ちゃんに、ベビーマッサージをしてあげることは出来ませんか?」
こんな質問に対して「生後すぐからでも大丈夫ですよ!」「低出生体重児の赤ちゃんでも、保育器の中でも、ベビーマッサージは出来ますよ!」と、わたしたちはお答えします。
あるいは、発達障がいのお子さんの多動や衝動性は、ベビーマッサージをしてあげると、驚くほど落ち着くということを伝えると、こんな質問が返ってきます。
「うちの子は、マッサージを嫌がります。どうしたらよいですか?」
こんな質問に対して「マッサージが嫌いな子はいません。嫌がっているのは、アプローチの仕方が原因かもしれませんよ。」とお答えします。
しかし、この答えを聞いたからと言って、即実践するには心もとないでしょう。実際これらのケースでは、ベビーマッサージのやり方や手技、アプローチ方法が違います。そうした多様な状況に対応したベビーマッサージのあり方についても学びました。
ベビーマッサージの完結編・アタッチメントの決定版
今回の新カリキュラムは、アタッチメントもベビーマッサージも、当たり前に知に知っている今のお母さんを相手に、アタッチメントの大切さを伝え、ベビーマッサージを教えるために、新たに必要な知識やスキルをアップデートしました。
講義を終えたわたしは、『アタッチメントをより深く理解してもらうことができた』とともに、『ベビーマッサージについて伝えるべきことを余すところなく伝えきった』という確かな実感を得ました。
全ての受講生に、それを伝えることができたかどうかはわかりませんが、少なくとも対面やオンラインで直接語りかけた方たちの多くには、確かに伝わったのではないかと思っています。
今回の新カリキュラムをもって、ベビーマッサージのカリキュラムにおける完結編であり、決定版であり、最高峰であると自負しています。
アタッチメント・ベビーマッサージ インストラクター養成講座
全面リニューアル 0期担当講師 廣島 大三