不登校:子どもの『いきたくない!』にどう対応する?⑤

親は、結局どうしたらいいの?

ここまでで、不登校のメカニズムやその原因となり得る要素をみてきました。では、親は、先生は、大人は、どうしたらいいのでしょうか。その答えは、「わたし(自分)」から「子ども」へ視点を移すということです。「学校に行きたくない!」という子どもに対して、「学校に行きなさい」「これ以上休んだら、勉強についていけなくなる」という言葉は、誰のためでしょうか?一見、子どものためのようですが、行ってもらいたいのも、勉強してもらいたいのも、親の方ではないでしょうか。さらに、ご近所の目もあるし、友だちに言えない、ママ友に噂される・・・こうした本音を覆い隠して、親は言います。「あなたの将来のためだから」「あなたのことを思って言ってるの」

しかし素直になってください。

親の心配は、愛情という名の押し付けである。これは、すべての親がそうなのです。かく言うわたし自身も、親としては同じです。子どものために何かをすれば、子どもにとっては、それが押し付けなのです。そのことに気づいてください。

そして、わたし(自分)の意見・希望・願望の一切をはさまずに、子どもの話をひたすら聞ききってみてください。自分ではなく、子どもは、どうしたいのか?子どもは、どうありたいのか?自分が主語になっていることを、すべて「子ども」に置き換えてみてください。


そのうえで、子どもと一緒に、5年先・10年先の未来を描いてみてください。子どもが成人して社会人になった姿を想像してください。そこには、目を輝かせて仕事をしている人がいます。その人は、どこに暮らしているでしょうか?まわりには、どんな人がいるでしょうか?

そんな未来を想像したら、「いま」学校に行けないことなんて、10年後のその人には大きなことではありません。学校ではなく、フリースクールを選択しても、大学に行かなくても、未来が幸せで自立した道なら、なにも不安に思うことはないことに気づきます。

どんなイメージだったとしても、親が子に最終的に求めるのは「自立」です。そこを確認できれば、「いま」の状況なんて、たいしたことではないことに気づけます。


わが子はそれで、本当に良い方向へ向かうの?

2番目の事例のお母さんが言っていました。「寄り添えばいい、子どもを信じていれば大丈夫って言うけど、本当に大丈夫なの?」この不安と葛藤は、当事者の親御さんには、当然のことだと思います。それに対して大丈夫な根拠を一つ提示します。

「時間の経過は、どんなときも万能薬」という真理があります。これは、不登校に限らず、どんな問題に対しても、変わりません。

このときに、条件が一つあります。それは「親が根負けする」ことです。つまり、不登校の状態に対して、親が「もういいよ、それで」と心から言えていることです。すると、「子どもは頑張ることに飽きる」のです。親が根負けしていれば、子どもは頑張って「学校に行かない」という抵抗を続ける理由がなくなり、やがて頑張ることに飽きるのです。

ここまでみてきてわかるように、子どもの「行きたくない!」は、親子の問題なのです。それが表面化するきっかけが、さまざまな形で起こるだけのことです。そして、親子の問題は、親子関係でしか解決できないのです。自閉症児の場合は、もともとの特徴によるところもありますが、それでも解決の糸口は、やはり親子関係であることは同じです。

一人目の男の子の事例を思い出してください。お母さんが、いろいろやってみて、子どもの話も聞いてみて、最後にいよいよ本腰を入れて不登校に取り組もうと覚悟を決めたのと同じタイミングで、お子さんは「やっぱり学校に行くメリットが大きいことがわかったから、学校に行く」と言い出すのです。


こんな風に、時間の経過によって、不登校は解決します。その子によって、時間の長短はありますが、これは絶対をつけて言えます。逆に言うと、時間の経過なしには解決はないとも言えるでしょう。

では、時間が経過しても解決しないことや、むしろ悪化することはないのですか?

それは、あります。その場合は条件が整っていないのです。その原因は、2つ考えられます。

一つは、親が根負け出来ていない場合です。まだ「私(自分)」を子どもに主張してしまっているのです。「いつかは学校に行ってほしい」と思い続けていたり、「卒業はして欲しい」という願いをあきらめきれていないなどです。だから、時間が機能しないのです。

二つ目は、何らかの「圧」が子どもにかかり続けている場合です。親からの圧はなくなっても、そのほかの圧が子どもにかかり続けていれば、解決しません。たとえば、2番目の事例では、1型糖尿病であることを知らせることで、クラスメイトに特別な目で見られてしまうことが「圧」になっていました。この場合、圧をなくすためには、特別な目で見られる状況を、本人が気にしない程度に軽減することが必要です。もしかしたら、クラスメイトには、そのことを開示しない道はないのか、と考えてみることはできます。もちろん、命の危険があってはいけないのですが、少しの工夫や割り切りで、子どもの居場所感を作ってあげることができるかもしれません。

このように、時間の経過によって、不登校の出口は必ず見つけられます。そのためにはまず、親が覚悟を決めて根負けする必要があります。そこに至るまでに、親も時間を必要とします。それは、ある意味で親と子の共同作業なのかもしれません。


一般社団法人日本アタッチメント育児協会

理事長 

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