「生きやすさ」を形づくるアタッチメントの秘密

「アタッチメント」という心理学用語が、一般の方の間であたりまえに語られるようになった。そう感じ始めたのは、おおよそ5年ほど前のことだろう。その感覚が確信に変わったのは、コロナ禍が明けた2023年、そして2024年のいまでは、現実のこととなっている。

そして「NHKスペシャル」で、アタッチメントがタイトルにあがったのは、つい先日のことだ。しかも、「すくすく子育て」、「あさイチ」との連動企画という大掛かりな扱われ方。放送翌日は、当協会のホームページにアクセスが集中したほどだ。

アタッチメント本がアメリカでベストセラーに!

番組をみて興味深かったのは、アメリカで「Attached」という2019年に出版されたアタッチメント理論の本がベストセラーになり、自分の「アタッチメントスタイル」に注目するようになっている、という事実だ。アタッチメントが、心理学の世界から一般世界に認知されるようになったのは、日本だけのことではなく、むしろアメリカで先行して起きていたことのようだ。これは、大きな潮流が起きていることを意味している。

ところで、この本の表紙にある副題が、じつに興味深い。

“Are you Anxious, Avoidant or Secure? How the science of adult attachment can help you find – and keep – love”

「あなたは不安型?回避型?それとも安定型?『アダルト・アタッチメント』の科学を知ることは、人を愛し、その人を愛し続けるために、どう役立つのか」

大人のアタッチメントからわかる性格分類

これは、「アダルト・アタッチメント」、つまり大人の愛着理論の本なのだ。アタッチメントと恋愛、アタッチメントと人間関係は、どのように機能するのか?大人のアタッチメントスタイルを「不安型・回避型・安定型」の3つの要素に分解し、自分のもつ人間関係の傾向や、思考のクセを知る。それは、子どものころのアタッチメントスタイルとどのようにつながるのか?そんなことを解き明かすのが、アダルト・アタッチメントだ。ご存じのように、アタッチメントは一生もの、大人になっても大きく影響する。わたしたちの人生を、生きやすくもするし、生きづらくもする。

わたしは、その人のアタッチメントスタイルの出方を「生きグセ」と表現する。自分特有の「生きグセ」を理解し、それを生きやすいように修正するのが、アダルト・アタッチメントであるとも言える。

人は、「不安型・回避型・安定型」の3つの基本的なアタッチメント・スタイルを、どのような割合で持っているのか?ちなみに、安定型100%の大人など存在しない。誰しも、アタッチメントに傷を負い、不安型や回避型の要素を持ち合わせている。その配分を個性と言ったり、性格と言ったりする。

アタッチメントを修復すれば“生きやすさ”が手に入る

自分のなかの安定型でないスタイルが、もし「生きづらさ」につながるような不都合があったとしても、アタッチメントを修正し、部分的に安定型に寄せることはできる。

そうすれば、より生きやすくなる。そのための道筋と方向性を教えてくれるのが、アタッチメント理論だ。アダルト・アタッチメントや、アタッチメント・スタイルが注目されるのは、社会において、いまよりも生きやすい自分の獲得が期待され、切望されているからにほかならない。

ところで、このアダルト・アタッチメントや、アタッチメント・スタイルについては「育児セラピスト1級」「アタッチメント心理カウンセラー」のなかで、くわしく扱っているので、本気で学びたい人は、ぜひとも受講を検討して欲しい。とくにアタッチメント心理カウンセラー講座は、わたしが直接登壇する数少ない講座であり、「アタッチメントを学び尽くす」ことがテーマとなっているので、そのような展望をお持ちの方は、ご検討を。

“よいアタッチメント”を、子どものうちから作っておく

さて話を戻すと、アタッチメント理論は、われわれが“生きやすさ”を手に入れることや、人間関係を良好に保つことにおいて、大きな希望を与えてくれる。アタッチメントとは、本来そういうものなのだ。乳幼児期に形成され、その後一生を通してその人が人生のなかで適用する「すべての人間関係の枠組み」であり、「思考や性格を司るメカニズム」でもある。

言うまでもなく、ある大人のアタッチメントは、その人の子どものころに、親(あるいは養育者)とともに形成されたアタッチメントが基本となっている。大人のそれは、人生のなかで大きく変わるものではないし、容易に変わるものでもでない。

一方で、子どものころのアタッチメントは、良い方向にしても、悪い方向にしても、容易に書き換わる。幼少期に、“よいアタッチメント”を獲得しておけば、その後もそれを維持しやすい。アタッチメントは、年齢を重ねるごとに、固定化していくからだ。「アタッチメントは、乳幼児期が大切だ!」と言われる所以であり、わたしたちが、子どものアタッチメントに注力してきた根本理由でもある。

“生きやすいアタッチメント”を得るカギは、幼少期にある

同時に、この事実は大人のアタッチメントの修復において、重要なカギとなる。つまり、「その人の子どもの時の親子関係と成育歴に、アタッチメント修復のカギがある」ということだ。これは、子どもの頃の嫌な記憶を引きずり出すような意味ではない。むしろ逆である。

「生きづらさ」が生ずるアタッチメント・スタイルに対して、子ども時代へ戻る方向にアプローチするのだ。その人を年齢のとおりに見るのではなく、基本的なアタッチメントが形成される前の年齢に見立てるのだ。

心理臨床の現場で「アタッチメントに基づく心理療法」として、精神科医や臨床心理士から注目されている『メンタライジング』という手法がある。そこには、こんな言葉がある。

『親が子どもにしてあげるような関わりをするカウンセリング』

これは、アタッチメント理論の提唱者である精神科医ジョン・ボウルビイのこの言葉が背景となっている。

「治療者の役割は、子どもに安全基地を提供している母親のそれと類似している。子どもはそこから世界を探索しに出かける」

わたしたちだからできる、アタッチメントの育てなおし

わたしは、もっぱら子どものアタッチメント形成に興味を持ってきた人間である。それは、アタッチメントの瑕疵(かし)を補うのも、よいアタッチメント形成を導くのも、幼少期の方が効果的だったからである。アタッチメントというものに、誰も興味も関心も持っていなかった時代に、アタッチメントを導くには、子どもの未来へ働きかけることが優先順位の一番だったのだ。

しかし時は流れ、いまやアタッチメントは、一般の若者や大人から注目され、必要とされるようになった。自分の生きづらさの解消や、恋愛をはじめとするすべての人間関係を円滑にするための“アタッチメント修復”が広く求められている。

そのカギとなる「子どものアタッチメント形成」に尽力してきた私たちだからこそ、いま大人のアタッチメントに対して、これまでの知見と経験を役立てることができる。先日のNHKスペシャルを観て、わたしは、そんなことを密かに考えたのだ。

一般社団法人日本アタッチメント育児協会

理事長 

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