第14回育児セラピスト全国大会in2023 優秀実践者発表 保育・子育て支援部門・田口 いづみさん
田口さんは、これまで保育士、幼稚園介護員、小学校図書ボランティアなど、さまざまな形で地域の子育て支援にたずさわってこられた末に、新宿区の制度である「保育ママ」の仕事に出会い、以来20年以上にわたって従事してきました。
保育ママは、家庭的保育とも言われ、3歳未満の子ども3~5人を、保育者の自宅であずかり、保育を提供するという、ベビーシッターと保育園の中間のような存在です。
3歳までの子どもの育ちを見守り続けるこの仕事は、「子育てのいいとこ取りをさせてもらっているようなもの」と田口さんは言います。
保育の基本は、アタッチメント
田口さんが、保育ママを始めたころ、仲間うちでベビーマッサージの話になりました。そして、ベビーマッサージを、みずからの保育に取り入れたら良いのではないかとおもい、インターネットで調べました。ベビーマッサージ教室ではなく、ベビーマッサージを行うための研修を探す中、日本アタッチメント育児協会と出会ったのが2009年のことです。
決め手は、田口さん自身が保育の基本と考えていた「アタッチメント」を主体としていたことでした。
早速「アタッチメント・ベビーマッサージ インストラクター養成講座」を受講し、資格を取得しました。
同期の受講生のなかには、ベビーマッサージ教室を地域で展開して、優秀実践発表をして、いまも精力的に活動されている方や、養成講座の講師になった人、大学で教えている人もいます。そんな中で、田口さんは「自分は、そうしたメインストリームの方々とは少し違うベビーマッサージインストラクターだ」と思っていたそうです。
「その自分が、こうしてみなさんの前で優秀実践者として発表することになるとは思ってもみなかった」と言います。
保育ママのベビーマッサージ教室のカタチ
田口さんがやってきたのは、現場で保育ママとして、ベビーマッサージを活用することでした。
それは、多くのインストラクターがしている「お母さんにベビーマッサージを教える」という活動ではなく、むしろ「自分がママとしてベビーマッサージをする」というものでした。
これまでの13年間、田口さんは、インストラクターとしてよりも、実践者としてベビーマッサージを活かしてきました。
スキンシップのひとつとして、寝かしつけの時に、遊びの中で、ベビーマッサージ教室のように決まった時間や機会をつくるのではなく、日々の生活の中で、お母さんが子どもにするように、ベビーマッサージを取り入れるようにしてきたそうです。
そのなかで、田口さんが感じた子どもたちの成長の様子を、親御さんに伝えてきました。
それを聞いて、「ベビーマッサージを自分でもやってみたい」という方もいれば、「お任せしたい」方もいて、親御さんの反応はそれぞれだったと言います。それでも、田口さんが保育ママとして「家族と変わりない愛情を抱いている」ことは、一貫して伝わっていたのだと言います。
毎年スキルアップし続けたから、それが保育に活きて、保護者にも伝わった
田口さんは、日本アタッチメント育児協会が毎年リリースする新しい講座を、必要や興味に応じて受講し学び続け、全国大会にも極力参加するようにしてきたそうです。
その一番の目的は、「いろいろな刺激が受けられること」だったそうです。そうして、田口さんが身につけた「資格」は10に及びます。
その一つ一つが、保育ママとしての仕事につながっていることを実感するそうです。
「どの講座も根本的な部分がアタッチメントで一貫していて、さらに発展・応用ができるので、自分が思い出し振り返るためにも受講しています。」と田口さんは言います。
とくに、育児セラピストの学びは、保育ママという仕事で活かせる場面が多いそうです。それと同時に、改めて「基本はベビーマッサージ」だと感じるそうです。
「アタッチメントと安全基地という言葉が何より根底にしみついていて、子どもたちの日々の中で工夫して少しでも多くの場面で生かしていきたい。そして保護者の方との会話の中で、自然にその話題が出るように、自分の中で消化して体験が言葉になるように使いこなしていきたい。」田口さんは、そう言います。
この地域みんなの“ばあば”になりたい
「保育ママを仕事として、このさき何歳までつづけられるかはわかりません。
いずれにしても、この地域で、ばあばが近くにいない親御さんとお子さんにとっての“ばあば”になりたい。」田口さんは、そんな展望を最後に語ってくれました。
そこには、田口さんのこんな思いが秘められています。
「何かあったときにこそ、そこに行けば安心という居場所になる。そのために欠かせないものとしてアタッチメントありきが当たり前の日々を、子どもたちには過ごさせてあげたい。そうしたつながりを感じ取ってもらうことで、まわりに広がるよう心がけたい。」
廣島からひとこと
ベビーシッターとも違う。保育士とも違う。地域の子どもと独自の関わり方をする保育ママ。
田口さんは、それを20年以上つづけてきました。20年前は、今のような肯定的な受け入れられ方ばかりではなかったと想像します。
みずからが学び、スキルアップを続けた田口さんのような方が、保育ママの良さを伝え、子どもたちの育ちでそれを実証し、いまの「保育ママ」というポジションを築いてこられたのだと思います。
田口さんは、ベビーマッサージとアタッチメントを切り口に、子どもたちと日々接して、その様子を親御さんに伝えてきました。
あるお母さんは、田口さんの「ベビーマッサージ」を介した手厚い保育に感謝をします。あるお母さんは、「ベビーマッサージ」に興味をしめして田口さんから教わります。その積み重ねによって、ベビーマッサージの良さが、アタッチメントの何たるかが、親御さんに伝わってきたのだと思います。
「基本はベビーマッサージ」という田口さんの言葉には、そんなこれまでの歩みがにじみ出ています。
そして、田口さんも、村木さんと同じ景色を見ていました。それは、地域の“ばあば”になることです。
保育ママは、もともと地域の“ばあば”に近い役割を担っていました。これからは、仕事や制度とは関係なく、じつの “ばあば”に頼るかのごとく、地域の親子とつながっていく、そんな景色が、わたしにも伝わりました。
それは、むしろ“生きがい”であり、人生をより豊かに彩ってくれるものです。
“ばあば”は、頼りにされて、感謝されて、いっしょに楽しんで、いっしょに喜ぶ。必要なときには、頼ってきてね。いつでも歓迎しますよ。ただし、わたしは“ばあば”、子どもをかわいがるだけ。子どもの育ちは、親が見てあげてくださいね。そのためのアドバイスや悩み相談は、おまかせあれ。
こんな人が、すべての地域にいたら、子育ては、もっと楽しくなります。もっと楽になります。田口さんは、そのモデルケースだと思います。
すてきな発表ありがとうございました。