育て方が悪いのか、育てにくい子なのか

育て方が悪いのか、
育てにくい子なのか

発達障害と愛着障害

最近、わが子の発達について心配するお母さんの声をよく聞きます。また、発達障害に関する一般書籍も、よく目にするようになりました。

2005年に施行された発達障害者支援法の定義によれば、「発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」となります。

つまり、「発達障害」とは、先天的な脳機能障害であって、養育課程で起こるマルトリートメント(不適切な養育)による「愛着障害」とは区別されます。

しかし、発達障害と愛着障害は、症状が基本的に同じ、あるいは非常に似通っています。そのため、臨床現場では、生まれながらの脳機能障害なのか、その後の養育課程において、脳機能の発達不全がおきたのかを判断するのは、容易ではありません。親の養育状況のヒアリングや、親の子どもへの接し方をモニタリングするということを丁寧に行い評価するような方法で判断します。

しかし、実際の精神科や心療内科、小児科における診断現場では、チェックリスト診断が普及しており、上記のヒアリングやモニタリングのような手間をかけて診断されることは少ないのが現状です。そして、チェックリストによる診断だけだと、親の養育や食生活、その他の原因があったとしても、チェックリストに当てはまれば発達障害と診断されてしまうことは少なくありません。

仮に、愛着障害であった場合、親の養育や教育方針、言葉かけ、子どもへの態度などを改善する必要があります。それによって、幼少期であれば、症状は容易に好転することも多いです。逆になければ、症状は悪化の一途をたどるかもしれません。

愛着障害を専門にする精神科医や臨床心理士の中には、発達障害と診断されている子どものうち、相当数が愛着障害であると見立てる専門家もいます。

発達障害ではないけど育てにくい子

ここで、別の視点から見てみましょう。子どもにも色々います。生まれながらに、大らかな子もいます。フレンドリーで、比較的オープンです。そういう子は、育てやすく、お母さんは比較的に楽です。一方、生まれついて敏感な子というのもいます。環境の変化が苦手で、泣き出したら火が付いたように泣いて、なかなか泣きやみません。人見知りが激しく、扱いにくいです。こうした特徴は、「育てにくさ」として表れてしまい、お母さんは手を焼きます。

育てにくさの結果、不適切な養育を受けてしまったり、十分な愛情をもらい損ねてしまったりして、愛着欠如や愛着障害になってしまうケースがあります。

この場合、子どもは、まったく悪くありません。しかし、そうなってしまうお母さんの気持ちもよくわかります。誰も悪くはありません。しかし、起きている現実は不幸です。

実は、発達障害と診断されている子どものうち、このケースは少なくありません。脳機能障害をもって生まれてきたわけではないけれど、その後の養育の中でうまく愛着形成がされない環境に育ってしまい、発達が阻害されてしまう。その結果、愛着障害になってしまい、自閉症と同じような症状に至ることがあります。

また、生まれながらの脳機能障害による発達障害の子どもの場合、その「育てにくさ」は、健常児の比ではありません。そのため、発達障害を持って生まれた子の中には、好ましくない養育を受ける子どもも少なくありません。それによって、発達の遅れや発達障害の症状がより悪化してしまう「二次障害」を引き起こしてしまうケースもあります。

つまり、発達障害の中には、「育てにくさ+イライラ養育=症状としての発達障害・自閉症」や「軽い発達障害傾向+イライラ養育=症状としての発達障害・自閉症」という生まれながらの気質とその後の養育による二次障害が複合的に原因するケースが、相当数あるということです。

けっきょく子育ては、アタッチメント

発達障害であろうと、なかろうと、子育てで大事なのは「アタッチメント」であることは、確かなことです。むしろ、発達障害の子どもほど、丁寧にアタッチメント形成してあげる必要があります。

そして、その基本は0~1歳です。この時期が、アタッチメント形成において非常に重要です。ここで、しっかりとアタッチメントを育み、母親が安定した安全基地として機能してあげることは、発達障害児の発達促進にとっても、非常に有意義です。

発達障害というと、何か特別な対応をしなければいけないのではないか、と思いがちです。しかし、子どもにとって大切なことは、いつも同じです。「アタッチメント」という言葉には、その大切な要素が全部詰まっています。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ