第8回育児セラピスト全国大会2017大阪会場「10年の時を経て」
大阪グループワーク
東京では、集客のためのキャッチコピーを作るワークをしました。大阪でも、同じワークを行う予定だったのですが、午前中に行ったパネルディスカッションで出た問題定義に刺激されたこともあり、せっかくこうして育児セラピストが集まる機会なので、もう少し会場のメンバーで話をする機会を持ちたい、という思いが湧いてしまい、その場でワークの内容を変更しました。こういうのも、全国大会というライブならではのこととお許しいただき、スーパーバイジング的なワークを行いました。
ワークの内容は、「いま抱えている問題」をグループごとに話し合ってもらい、グループで一つ発表してもらい、それに対して、他のグループ全員から意見や解決策をもらう、というものです。これが、なかなか盛り上がりましたので、その内容を少しご報告します。
グループ1:保育園園長からの悩み「経験年数と実力が比例しない保育士の扱いに困っている」
年数は経っているけど一人前になれない人材というのは、どこの現場にもいます。「こうした人材を、どのように采配すればよいのか、どのように育てればよいのか?」
園長ともなると、もはや保育よりも保育園経営の方に比重が移りますので、当然マネジメントの問題は、園長の悩みの大きな位置を占める問題になると思います。今回の悩みは、「人材の采配」と「人材の教育」と言えるでしょう。
何を基準に役を振るとうまくいくのか!年数?能力?適性?人柄?
この園長の悩みに対して、別のグループの小規模保育園園長が、ご自身の事例を話してくれました。
「やはり、最終的には、トップが牽引し、トップが判断し、決断を伝えるしかない。その際、各保育士と個別に話をして、それぞれを評価して、采配する。ある程度は、トップの独断は必要。みんなの意見を聞いていたら、まとまらない話もある。人材の采配は、まさにその類だと思います。」
采配については、私も同意見です。普段から、定期的に日を決めて個別面談をして、スタッフ一人一人の話を聞く機会を作る。これは、トップマネジメントにおいて、とても重要なことです。1対1の時にしか聞けない話もあります。みんなの中では、見えてこない隠れた長所、あるいは短所も見えます。業務の中で表面化しない問題が浮上することもあります。こうした「業務外」の要素と、「業務上」の要素を総合して版アダンすることで、采配の精度は上がります。しかし、それでも判断を誤ることは多々あります。そうしたら、また采配し直す。その繰り返しです。人は成長するし、退行もします。個人の環境や状況だって変わります。だから、人問題は、いつだって生ものです。対応していくしかありません。
問題のある人材を、どのように育てればよいのか!
もう一つは、問題のある保育士の教育ですね。これについては、私が、ある園の事例を交えてお答えしました。個別の保育士に直接働きかける前に、全体研修を園長権限で実施することをお勧めします。当協会の講師でもあり、公立保育園の園長だった方の事例です。
「保育は、アタッチメントが大事だよ!」といくら現場で伝えても、伝わりません。問題のある保育士ほど、耳を傾けてくれません。だから、「研修の時間」を設けて、「全員で学ぶ」のです。きちんと、筋道を立てて、「なぜ大事なのか」「どう良いのか」「その背景は」「その根拠は」そして最後に、「何をすればよいのか」というところまで落として、時間をかけて話します。当然1日で終わるものではありません。これを数か月かけて行います。そうすると、少しずつ変化が現れます。学ぶ気のない保育士も、意識の高い保育士と同じ場にいることで、思いや熱意が伝播し、学ぶ意欲を燃やし始めます。それが、「全体で学ぶ」ことの力です。実際、その園は、変わったそうです。
モンスターペアレントを怖がり、親との対話に消極的な雰囲気だったのが、保育士ひとりひとりが、積極的に親と対話して、園の方針や考え、保育の意味を伝えるようになりました。すると、いつの間にか、モンスターはいなくなっていたそうです。モンスターを怖がり、回避しようとする気持ちが、逆にモンスターを生んでいたのかもしれません。
グループ2:保健師さんから「大人のコミュニケーションが難しいお母さんと接するには・・・
続いては、対人関係の悩みです。保健師さんは、お母さんの相談を受けることも多いですし、保健師の仕事として、相手が求めていないのに、関わらなければいけないケースもあります。お母さんの養育について、質問をして、答えを引き出さなければいけないこともあります。
時には、その日はじめて会ったお母さんに、お子さんの発達に問題があることを前提とした質問をしなければいけないこともあります。時には、「何であんたに、そんなこと言われなきゃいけないのよ」と悪態をつかれることもあるそうです。また、目の前で子どもの頭をひっぱたく親もいるそうです。保健師さんの場合、お母さんとの人間関係が出来ていない状態で、立ち入った質問をしなければいけない業務があり、そうした場面で、お母さんによっては、非常に神経を使うそうです。
関係性を作る前に、デリケートな領域に踏み込む必要があるとき
そのような「大人のコミュニケーションが出来ないお母さん」に接するときに、効果的な接し方があれば教えて欲しい、という相談です。
よいコミュニケーションの鉄則は、「関係性を深めること」です。しかし、関係性を作る前に、デリケートな領域に踏み込む必要がある保健師さんのお仕事は、非常に大変だとお察しします。
これについては、会場の発達支援員の方から、策をいただきました。「まずは、聞きにくい質問事項は置いておいて、雑談からはじめる。ひとしきりの雑談を終えて、少し距離が縮まったと感じた頃に、『ゴメン、何の話やったっけ、話逸れてしまったわ~』などと言って、本題に入るようにしています。」これは、短時間で相手との距離を縮め関係性を作るには、非常に有効な方法です。最初は、本題からずらした切り口で始める、というわけです。
もう一つ、私の方で、小手先の手ではありますが、1つ挙げてみました。対応マニュアルに載っていそうなことですので、目新しさはありませんが、丁寧に行えば効果は期待できます。ポイントは以下の3つです。
最初に、あなたに問題があるわけではない旨を伝えます。「この質問は、○○検診で、みなさんにお伺いしているものです。」 次に、質問の主旨をしっかりと説明する。「これからする質問は、○○のためのものです。」
そして、相手に望む態度を言語化します。「少し立ち入った質問もありますが、お気を悪くなさらないで、お答えください。」
こうしたことを、空気でわかり合うのが大人のコミュニケーションですが、それが通じないケースもあります。そうした時に、その「空気で通じる内容」を明確に、意図的に、言語化してあげるのです。そうすることで、無駄な感情の噴出を避けることが出来ます。
目の前で手が出たり、逆切れするお母さんにどう対応すればいい?
これについては、会場から一人の方が手を挙げてくれました。「例えば、笑いをとるなどして、張り詰めた空気を転換する。」確かに、「出来上がった雰囲気を壊して、別の雰囲気に変える」のは、非常に有効だと思います。つまり、その場の緊迫感を払しょくすることで、相手に安心感を与えることができるわけです。
これに関連して、今回パネルディスカッションでパネリストを務めていただいた臨床心理士の鎌田さんからも、同様のアドバイスをいただきました。「例えば、目の前でお母さんが、子どもに手をあげた場合、私なら『あらっ・・・まぁ~~~、大変!』などと言って、少しとぼけた反応をします。」この場合も、その場の雰囲気が転換されるので、その後の話がしやすくなります。この時の反応は、本人のキャラクターに合わせて、いろいろ出来ると思います。子どもをひっぱたく親を見たときに、通常起こり得る雰囲気、重く張り詰めた空気に対して、少しズレたような、とぼけたような、クスッと笑ってしまうような態度で応じるわけです。これも、必殺技ではありませんが、有効な手です。
グループ3:保育士さんから、仰天ビックリな親に、分別を教えるにはどうしたらよいか
園児ではなく、親の方に問題があるケースです。お願いしたことを守ってくれない、園で子どもが熱を出しても、連絡がとれない、なかなか迎えに来ない・・・こんなお母さんいますよね。このお母さんに、保育士さんがお願いしても、嫌そうな顔で話を聞く素振りを見せるだけ。見かねた園長が、直接このお母さんに話をするも、特に変化はない。
言うことを聞いてくれない保護者にわかってもらう方法を教えてください
質問者の方は、上記の内容を、とても面白おかしく、一人コントのようにお話いただき、会場は、深刻になるどころか、和やかな吉本興業のような雰囲気に包まれました、さすが、大阪のおばちゃんです!
とはいえ、この悩みも、「保育士あるある」なのではないでしょうか。この悩みに対しても、やはりこの言葉なのです。「必殺技はありません。」園長が1回言って聞かせたくらいでは、何も変わりません。この場合も、やはりコミュニケーションの基本である「関係性を作る」ということを、時間をかけて行うことに尽きます。そうして、関係性が出来てくれば、相手は、こちらに好意的に振る舞ってくれるようになるので、先のような問題行動も減りますし、例え問題が起こっても、きちんと「聞く耳」を持つようになってくれます。
これについて、会場の別の保育士さんからは、「問題のあるお母さんこそ、園児日誌などを通して、子どもの様子をきっちり書いてあげたり、迎えに来たときなどに、今日の様子を伝えたりして、丁寧に接してあげると良いのでは!」との意見が出ました。さすが、同じ保育士さん、具体的かつ、明日から出来そうな意見です。
グループ4:中規模保育園のパート保育士さんから、正規職員は若手ばかりで、彼女たちを指導出来るベテランが現場にいない
このグループも、グループ1と似た問題です。相談者の園は、80人規模だそうです。会場には、小規模園の園長先生が何人かみえましたが、小規模園の場合、園長も現場にいて、園長が直接若手スタッフの教育を担う形なので、このような問題は、あまり起きないと、口々におっしゃっていました。これは、中規模あるいは大規模保育園特有の問題なのかもしれません。
相談者のケースのように、中規模園の中には、園長などのベテランは、保育園経営が主な仕事となり、現場になかなかいない、そして、ベテラン園長のほか、正規職員はほとんどが若手保育士、中堅の年齢帯の保育士はパート職員、というケースがあります。
指導者も先輩もなく、放ったらかしの若手保育士に教育の機会を!
保育園と言えども、いまの若者にとっては、あくまで「職場」です。「面倒な仕事はしたくない。」「問題児の相手はしたくない」そんな気分で保育という「仕事をこなす」保育士もいるようです。さらに問題なのは、正規職員とパート職員との間に壁を作り、「パートだから」という理由で、先輩保育士であり、人生の先輩である人たちから学ぶ姿勢を持ちません。
そうなると、若手保育士は、先輩からの指導もなく、「仕事としてこなす保育」が現場で行われるわけです。私たちパートの言うことは聞いてもらえない、園長は現場にいない。この保育士たちを、一体だれが一人前に教育できるのか。この園は、どうなってしまうのか。そんな「良識ある大人」としての懸念の声です。
これについての答えは、グループ1の通りです。園長に現状を伝えて、正規職員、パート職員合わせて全体勉強会の機会を持つ。あるいは、園における保育士の指導方針を園長の口から伝えてもらえると良いですね。
「保育(仕事)には、正規もパートもない。経験年数の多い保育士や、子育て経験のある保育士は、若い独身保育士を指導してほしい。若手保育士は、先輩保育士の指導に従って欲しい」
グループ5:産科の看護師さんから、母性の芽生えない妊婦さんの母性を目覚めさせるには、どうしたらよいでしょう
現場の看護師さんならではの悩みです。これは、パネルディスカッションの中で出た「妊娠を自己承認できていないお母さん」の話と通じます。母性の芽生えが困難なお母さんは、妊娠に対して当事者意識が少なく、また、お産も大変になるケースも多く、さらに、出産後も、なかなか母性が芽生えず、子育てに興味を持てずに帰宅することも多いそうです。妊娠期から、せっかく自分が関わっているのに、そうしたお母さんの母性の芽生えを助けてあげられない「もどかしさ」があるのだと思います。そして、このケースでも、なにか必殺技を期待されています。しかし、やはり「必殺技はありません。」
アタッチメントが母性の芽生えを促す
結局のところ、地味で当たり前の働きかけを、地道に時間をかけて行っていくよりほかはありません。呼吸法を中心としたマタニティ・ヨガ(アタッチメント・ヨガ)は、妊娠期の母性への働きかけとして、とても有効です。おなかの子どもに、先に名前を付けて、名前で呼びかけるのも有効です。こうしたことを、毎日とはいかないまでも、定期的に、教室のような形で取り組んであげることが、一番の方法です。
母性の芽生えが難しい人もいる、それでもいい「母も育つ!」
臨床心理士の鎌田さんは、これについて次のように語る。「母性の芽生えの困難な妊婦さんはいます。そうした妊婦さんには、無理強いをしないことも大切。確かに苦労するかもしれないけど、そういう方がいてもイイじゃないですか。その人のペースで母性を育てればいい。そういうスタンスも大切です。『母も育つ』」
確かに一理あります。こちらの思いと、相手のテンションに差があっては、うまくいきません。母性の強い看護師さんだからこそ、「何とかしてあげたい」という思いが強いのですが、相手が受け止めきれなければ、過干渉になってしまい、ヨガで言うところの「マインドフルネス」は得られません。少しクールなくらいの関わりの方が、母性の目覚めの弱い妊婦さんには、ちょうどよい場合もあるでしょう。
グループ6:親子教室の先生から、スマホやモノを与えることが愛情と信じるお母さんたちをどう導けばよいのでしょう
スマホを子どもに持たせて、子どもを放ったらかしにする母親の姿が目につきます。あるいは、モノはふんだんに与えて、手間や愛情をかけない母親も増えています。彼女たちは、スマホやモノを与えることが愛情だと勘違いしているようにも思えます。そうしたお母さんたちに、どうしたらアタッチメントを伝えられるか。
これは、保育、教育、子育て支援に携わる人の多くが持っている悩みではないでしょうか。
これについても、やはり「必殺技はありません」ここでは、お母さんたちの「聴く耳スイッチを押してあげる」ということを提案したいと思います。闇雲に、こちらが伝えようとしても、それがどんなに良いことでも、お母さんは、聞きません。そのことについて考えもしません。ですから、結局は、グループ4の保健師さんの質問の答えである「仰天お母さんへの対応」と同じになります。
お母さんの方から近寄ってくるのを待つのがミソです
お母さんとの距離を縮めて、「この人頼りになるなぁ」と思ってもらって、お母さんの方から「あの~」と相談に来るのを待ちます。お母さんも、本当はモノを与えることが愛情じゃないことは、直感的に気付いています。でも、その真実を見ないようにしているのです。だから、頼りになる人と出会えば、必ず相談してきます。自分の子育てが正しいのか、子どもの育ちは大丈夫なのか。
答えは、実はいつもやっている教室の中にあった
そうして、お母さんの方から擦り寄ってきた時に、はじめてアタッチメントを伝えることが出来ます。この段階で伝えれば、非常に深く伝わります。ベビーマッサージ教室とういうのは、実は、このプロセスを行うのに非常に適しているのです。ベビーマッサージに興味を持って教室に来ます。そこでベビーマッサージを教えてもらう過程で「この人頼りになるなぁ」と思います。そして、レッスンが終わると「あの~」と来るわけです。
つまり、みなさんが、普段やっていることそのものが、この悩みの答えであり、みなさんは、それを日々実践しているということです。
目次
- 2日目:育児セラピスト全国大会シンポジウム
- パネルディスカッション
- ▼ 大阪会場 優秀実践者発表
- 全てをリソースと捉えて前に進んで拓いた「社会人第2のキャリア」
- ― アタッチメント教室部門:福原 寿々代さん(親子教室講師・子育て支援非常勤職員)
- 看護師から、食事で防ぐ予防医学、そして食育へ
- ― アタッチメント食育部門:牧 香奈子さん(予防医学講師・看護師)
- 大阪グループディスカッション
現場が抱える問題をスーパーバイジング - ランチ懇談会