今、社会に求められているアタッチメントの力
ひろば「にこにこパーク」毎月4回、地域にも門戸
(2013/7/25)
ベビーマッサージで親子に信頼/子育てに自信、一生継続する愛情築く
アタッチメント(愛着関係)は赤ちゃんの安定した心と健やかな育ちに欠かせないもの。子育て支援を目的に、親子のひろば「にこにこパーク」を開き、アタッチメント・ベビーマッサージを指導している乳児院・白百合ベビーホームの院長、島田恭子氏にアタッチメントの重要性とその可能性について聞いた。
虐待などで乳児院に入所した子どもは、できる限り2歳くらいまでに実の親の元に帰れるよう支援している。「親子のひろば」は地域に帰る子どもと親の訓練の場として5年前、乳児院内の集会室に開いた子育て支援の場だ。
「わが子を乳児院に入れる親は特別な存在だと思われがちですが、決してそうではありません。夜泣きがひどかったり、ミルクを飲まなかったり、誰でも悩むようなことでつまずいて、虐待事件を起こしてしまうのです。ここは核家族が多い地域なので、誰でも子育てに行き詰まってしまう可能性があります。そこで、乳児院に入る子を減らしたいとの思いから、地域の親子にも利用してもらえるようにしました。ひろばは乳児院の子と地域の子が一緒に遊び、親同士が交流しながら子育てを学ぶ場になっています」と島田氏は語る。
アタッチメント・ベビーマッサージ教室を開いたきっかけは一組の親子だった。
「生後3か月のわが子を、まるで賞状を持つように両手で抱えてひろばに来た母親がいました。この地域にも、赤ちゃんの抱き方も知らない母親がいることにショックを受け、何とかしなければと思った時、アタッチメント・ベビーマッサージを知り、インストラクター養成講座を受講したのです」
島田氏は2008年11月にアタッチメント・ベビーマッサージ教室を開き、現在は毎月4回開催している。
「核家族で育ったお母さんは赤ちゃんを見たことも抱いたこともないまま母親になり、子どもへの接し方が分からない、子どもの気持ちが分からないと不安を感じています。ベビーマッサージは親子で過ごす楽しい時間。マッサージを通して、こうしたらわが子は喜ぶということを知り、私が子どものことを一番わかっているのよ、私のことを一番わかっているのはわが子よとお互いに信じ合う。それによってアタッチメントが形成され、子育てに自信が持てるようになるのです」
アタッチメントは子どもが大きくなっても一生継続していく。その時々の親子の関係性の中で共に楽しい時間を過ごせる営みは必ずあり、それを見つけ出す知恵をベビーマッサージで学ぶことができるのだという。
「愛着は大人が主導で形成するものではなく、子どもの出すシグナルに気づいて、子どもの望みに応えることで形成されていくものなのです」
「つどいの広場」で交流・相談・癒し
アタッチメントが地域の子育てを変える
今号では、地域の子育て支援の現場が抱える問題と、これからの可能性について考えてみたい。 現在、国による子育て支援の一環として行われている「広場事業(通称)」は、様々な形で展開されている。これらの目的は、子育て中の親子が、気軽に集い子育ての悩みや不安を、相互交流を通して解消することだ。
その背景には、外に出る機会もなく、育児を手伝ってくれる人もいなく、母子が孤立してしまう現状がある。この孤立化は、育児を困難なものにするだけでなく、虐待やネグレクトなど、深刻な問題の背景ともなっている。そうした現状に対して、この広場事業は一定の成果を上げている。
しかし、依然として問題も残されている。孤立し、育児に困難を抱えるお母さんほど、外に出たがらない。つまり、本当に支援を必要とする親子に届かないのである。 当協会の育児セラピストたちの中にも、まさに、「広場事業」として活動する保育士や市職員が、多数いる。
そこでは、お母さんたちに足を運んでもらうために、ベビーマッサージや、マタニティ&ベビーヨガ、親子体操といった習い事が企画されている。
つまり、お母さんは、支援を求めて広場に足を運ぶのではなく、習い事のためにでかけるのだ。そして、行ってみると、それらの習い事は、アタッチメントの営みであるので、お母さんは癒され、子どもが生まれてきてくれた幸せを再認識する。それだけではなく、そこには、他の親子との交流も生まれる。
ここで我々が重視しているのは、実は企画の内容ではない。むしろ、お母さんたちが、自由に交流し、悩みや不安を話すことが出来る「場づくり」、育児相談に答えてあげられる「根拠のある知識」、お母さんを癒してあげられる「対人スキル」、そうした素養が重視される。
ベビーマッサージのような目新しい習い事は、企画として注目される。それに対して、我々育児セラピストが重視するのは、メソッドや方法論ではなく、目新しさも派手さもない、むしろ地味で基本的かつ本質的な素養である。
メソッドは、お母さんを引きつける。そして、素養は、お母さんを導く。メソッドと素養の両方を持った人材が、いま、子育て支援において最も必要とされる人材なのではないだろうか。そのような人材を地道に育成していく事が重要であると考える。
目次
- 寺下医学事務所代表/医療判断医・心療内科医
寺下謙三氏 - 舛本産婦人科医院看護師
杉原美代子氏 - 社会福祉法人白百合ベビーホーム
親子のひろば「にこにこパーク」施設長 島田恭子氏 - 淑徳短期大学 事務局長
小野寺利幸氏 - 川口市立医療センターNICU看護師長
鈴木悦子氏 - 宝塚大学 副学長/看護学部 学部長
柴田恭亮氏 - 桜美林大学 心理・教育学系 リベラルアーツ学群教授
(臨床発達心理士)山口創氏