第7回育児セラピスト全国大会2016「あそびをまなぶ」

優秀実践発表 大阪

保育・幼児教育部門:寺下 悦子さん

「『思い』と『好奇心』と『欲求』が創りだす、人生第二ステージの生きがい」

寺下さんは、福井県敦賀市で30年間保育士をした後、引退して現在は、地域の主任児童委員、県の子育てマイスターとして活動しながら、ベビーマッサージ教室「はっぴぃクローバー」を運営されています。

30年の保育士経験から感じる懸念、それに対して「何かしたい!」

「アタッチメント・ベビーマッサージ講座」を受講したのは、2010年のことでした。そのきっかけは、寺下さんの30年の保育士としての経験の中で感じた思いだったそうです。それは、「親子関係が薄くなってきている現状への懸念」と、それに対して、「保育士を30年間続けてきた自分に何かできることはないか」という思いでした。

当時、寺下さんは、ベビーマッサージを知らなかったそうです。なんだろうと思い調べてみると、そこには「親子関係を育むマッサージ」とありました。まさに、寺下さんがテーマにしていた「親子関係を育む」学びを前に「それって何だろう」という好奇心と、新しい引き出しを自分の中に取り込みたいという欲求にワクワクしながら、講座を申し込んだそうです。

好奇心とやりたい気持ちで、自然と形になっていったベビマ教室

インストラクター資格を取得した後、「せっかく学んだことを還元したい!」という思いと、「ママとベビーの実際の反応を見たい!」という好奇心と欲求から、知り合いの現役ママに頼んで、ベビーマッサージを実践させてもらったそうです。その後、そのママが友達を呼び、ベビマ教室の形となっていき、ベビマの合間に育児の話をしたり、相談に乗ったりしたのが、寺下さんの「はじめの一歩」だったというわけです。最初のママたちの後押しを受け、一般のママたちも募集して体験教室をやってみようということになりました。これが、今の「はっぴぃクローバー」の原型となりました。

寺下さん5寺下さん6

ここで、我々の学びとなるのは、地域に根差したベビーマッサージ教室を5年以上やってこられている寺下さんですが、実は、その「はじめの一歩」は、「一人の知り合いのママに、ベビマをやらせてもらった」というカジュアルな行動です。そのママからほかのママ友へ、そして数人の知り合いママたちの後押しで、一般のママへと広がり、今では、自宅教室だけでなく、児童館や子育て支援センターまで活動の場は広がり、地域になくてはならないベビーマッサージ教室に成長していることです。結果を先に見ると、すごいことですが、「はじめの一歩」は、ほんの少しの勇気があればできる小さな行動なのだということがわかります。

生の声を聞いたからこそ見えてきた、ママの隠れたニーズ

もう一つ、寺下さんの発表から学んだことがあります。それは、最初の体験教室を実際にやってみた後、それをきちんと振り返り、教室の方針設定をされていた点です。「ママは、集う場所を求めている。」「楽しかったことを共有したい」というママの隠れたニーズをとらえています。そして、社交的でない人も多いから、「少人数クラス」を設定しています。これもママの隠れたニーズです。ベビーマッサージ教室だから、ベビーマッサージを教えるわけですが、人の行動には、表の欲求の裏に、必ず裏の欲求やニーズが存在します。そして、大事なのは、この裏の欲求に応えてあげることなのです。寺下さんは、それを体験教室で、実際のママの声を聴いて、このニーズを拾い上げていたのです。

リピートとクチコミのみで人が集まる秘訣

さらに、寺下さんの発表には、教室運営に関しても、参考になることがたくさんありました。寺下さんの教室運営は、リピートと口コミと生徒さんの満足をもらうための秘訣がたくさん詰まっています。実際、「はっぴぃクローバー」でチラシをまいたのは、最初の体験教室の1回のみで、その後は、すべてリピートと口コミだけで、人が集っているそうです。これは、ベビーマッサージ教室としては、理想形の一つと言えますが、寺下さんの発表から見えてきた秘訣をまとめてみたいと思います。

ちょっとしたひと言を文字にすると、心の距離がグッと近くなる

一つ目は、「ウェルカムボード」です。教室に来てくれたお母さんたちに向けて、毎回、季節のことや、その時に思ったことなど、寺下さんの人柄がうかがえるようなことを、ウェルカムボードに書いているそうです。これは、寺下さんと生徒さんの関係性を深める役割を担っています。つまり、このウェルカムボードが「また来よう!」「また来たい!」という気持ちにさせるのです。これは、ウェルカムボードではなくてもかまいません。「〇〇通信」のよう手作り新聞もよいと思います。先生の気持ちや人となりを感じるもので、毎回更新できるものなら、何でもよいのです。これが、リピートを生みます。

満足の気持ちが、もっと大きく深い満足になる「魔法の紙」

寺下さんは、教室が始まる前に、「ママのきょうの気持ち」を書いてもらうための用紙を用意しています。

寺下さん1寺下さん2

これは、生徒さんにとっては、先生への「子育てプチ報告」になっています。自分の子育てを言葉にすることによって、子どもの成長を実感し、それを先生に報告して共有することができます。寺下さんは、これを一人一人丁寧に読んでいるそうです。そうして、一人一人のママの様子を把握して対応します。あえて「書く」という行為を通して、文字だから言えること、気付ける気持ちを引き出しています。先生とのこのやりとりは、「来てよかった!」「先生ありがとう!」という気持ちに膨らましてくれて、リピートにつながります。その気持ちは、さらにクチコミにもつながり、ママがママを呼んできてくれる流れを作ります。

手間がかかっているからこそ生まれる、心からの喜びと感謝

三つ目のポイントは、写真の活用です。ママたちがベビーマッサージをやっているときの写真を撮り、フェイスブックに上げて、教室の皆さんで共有しているそうです。この効果は大きいです。というのも、参加したママのお友達も、フェイスブックでこれらの写真を見ているからです。こうした実際の場の写真は、大きな口コミ効果があります。さらに、寺下さんは、1歳になってベビーマッサージを卒業するママ一人一人に、これまでのベビマ教室での思い出の写真で「卒業アルバム」を手作りしてプレゼントしているそうです。これは、ママたちにとっては、涙が出るほど嬉しいことと思います。寺下さんは、キッズマッサージとアタッチメント・ジムの教室を児童館でやっているのですが、「はっぴぃクローバー」の生徒さんは、ベビーマッサージを卒業すると、こちらへ来てくれるそうです。

寺下さん3寺下さん4

保育士歴30年のベテランが作ったカリキュラムのツボ

四つ目に注目したいのは、カリキュラムの秀逸さです。ここは、さすが保育士歴30年のキャリアのなせる業です。

  1. アクティブな遊びで始める : 機嫌のよくない子も、ご機嫌になったり、場の雰囲気が楽しくなる
  2. リラックスのベビーマッサージ : アタッチメント・ヨガの呼吸法を使い、お母さんも赤ちゃんも興奮を冷まし、リラックスした状態でベビーマッサージを行う (寺下さんは、セサミオイルを使った基本に忠実なマッサージを積極的に推奨しています。これについて、オイルを使ったマッサージの方が、赤ちゃんが各段に気持ち良いので、ベビーマッサージの効果をより実感できるという経験則だそうです。また、動いてしまう赤ちゃんは移動しながら、お座りしたい赤ちゃんは、お座りしたままで、マッサージさせてあげるそうです。こうした「すすめ方」も、寺下さんの教室の質の良さにつながっています。)
  3. 絵本の読み聞かせ : 赤ちゃんに対してだけでなく、お母さんたちに、これから1歳になったら、2歳になったら読んであげてね、と教えてあげるそうです。これが、赤ちゃんにも、お母さんにも、良い気分転換になっているのだと思います。
  4. おやつタイム : 最後の締めに、手作りおやつをふるまって、歓談するそうです。この時間に育児相談に乗ったり、食育の話をされています。

この4段階のカリキュラムは、カリキュラム作りのプロの私が見ても、非常によくできています。「起承転結」になっているのです。このカリキュラムなら、非常に良い場づくりができているはずです。実際、寺下さんの教室の様子を写真で見ると、非常にリラックスした良い場ができていることが、見て取れます。こういう場ができると、赤ちゃんもぐずりにくいと思います。このカリキュラムは、皆さんもぜひ参考にされてはいかがでしょうか。

人生を素敵に生きる秘訣

寺下さんは、30年の保育士生活を引退した後、ベビーマッサージ インストラクターになり、ベビーマッサージ教室「はっぴぃクローバー」を立ち上げました。その活動を通して、寺下さんは、地域の子育て支援の核として、居なくてはならない人となりました。そして、保育士として働いていた時には出会えなかった人と出会い、たくさんのお母さんたちとつながり、感謝され、忙しい毎日を送っています。発表していた寺下さんは、本当に輝いていて、まさに、現役保育士を引退されてから、第二の人生のやりがいとともに、生涯現役を貫かれるのだと感じました。寺下さんは、発表の最後にこうおっしゃいました。

虐待やネグレクトが問題視されている昨今、元気そうに見えても、心にたくさんの問題を抱えるお母さん、たくさんいます。私たちは、そうしたお母さんに寄り添い、サポートしてあげられる存在でいましょう。

現役を引退した後も、これほど熱い「思い」と、「好奇心」そして「欲求」も持ち続けて、人生を歩まれている寺下さんに、「人生を素敵に生きる秘訣」を見せていただきました。 寺下さん、ありがとうございました。

目次

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

コメントは受け付けていません。

このページの先頭へ