第10回育児セラピスト全国大会2019~この10年の子育て環境を振り返り、これからの10年を見据える~
2019年11月10日に開催された日本アタッチメント育児協会・全国大会 大阪(第10回記念大会)の基調講演でお呼びしたのが、米澤 好史先生でした。愛着障害の研究をリードする研究者でありながら、つねに現場におもむき、実体験から実証をかさねてきた米澤先生には、ぜひお話をお伺いしたいと思ってきました。その念願がようやくかなったわけです。
会場となった宝塚大学・梅田キャンパスでお会いした米澤先生は、思っていた通りの気さくで、冗談の大好きなお人柄で、思いのほか話がはずみました。印象的だったのは、米澤先生の「アタッチメント」に対する理解やその可能性の方向が、わたしの考えていたことと非常に近かったことです。これには、大いに共感を覚えました。
今回、米澤先生には、アタッチメントについて様々な観点からお話しいただきました。ここでは、その中から、みなさまの関心が高い「愛着障害」に関する内容を、ダイジェストしてお届けいたします。
このほかにも、「親子関係のウソ・ホント」では、世間で言われている子育ての「ホント」が、アタッチメント的には「ウソ」になるという興味深い内容もありました。会員のみなさまは、報告の全文を こちらからお読みいただけます。
一般社団法人日本アタッチメント育児協会
理事長 廣島 大三
「愛着障害の理解と支援」
米澤 好史 先生 特別講演 ~ダイジェスト版~
米澤 好史 教授(和歌山大学)
大学の研究者であり、現場を飛び回る支援者でもある、日本で数少ない愛着障害の専門家
保育・教育・施設・・・現場の支援をとおして研究してきたこと
米澤先生の現場支援をとおした研究テーマに、「攻撃性の支援」「意欲の支援」「人間関係の支援」の3つがあります。研究のなかで分かってきたことは、「攻撃性」「意欲」「人間関係」の問題は、すべて愛着(アタッチメント)の問題が関与している。
愛着障害と発達障害の違いが考えられていない間違った支援
愛着障害の支援は、現場に足を運ぶことが重要です。現場を知らない専門家は、親御さんや先生(支援者)に間違ったアドバイスをしてしまうことがあります。アドバイスの通りにやっているのに、問題が一向に解決しない、状態がよくならない。これは、「見立て」そのものが間違っているのです。
特にお伝えしたいのは、愛着障害と発達障害では支援の仕方が違うということです。でてくる問題行動の特徴がよく似ているので、発達障害児のための支援を愛着障害児に行ってしまうことが、よく起こります。
愛着障害はだれがなおせるのか
愛着障害をなおせるのは、医師でしょうか?発達障害の治療には、投薬があります。これは、愛着障害には効果がありません。心理の専門家でしょうか?心理療法も、愛着障害のこどもには限界があります。愛着障害をなおせる一番の人のは、「日々その子と関わっている人」です。かならずしも親でなくともよいのです。その子と、一定以上の期間、安定的に関われる、特定ひとりの人です。
愛着障害は、感受性の問題でもある
愛着の問題が起きやすい親子関係の特徴についてもお話しておきます。親御さんの感受性が弱い場合。こどもが、さまざまに心のサインをだしているのに、お母さんがそれに気づけない。逆に、親御さんは、いっしょうけんめいこどもに関わって、愛情をしめしてくれているのに、こどもの方が、それを受け取れない場合。こうした感受性の問題で、愛着の問題が生じてしまいます。
愛着障害は、虐待児や施設児にだけ起こるの?
むかしは、愛着障害は、施設で育ったこどもや虐待をうけたこどもにだけ起こるものだと言われていました。これが、一つ目のまちがった理解です。
愛着障害は、誰にでも起こり得ますし、通常家庭でも起こり得ます。
愛着障害は、育て方が悪いせいなの?
もうひとつの視点として、愛着障害は、親の育て方のせいだと言われてきました。これが、二つ目のまちがった理解です。
愛着障害は「関係性」の障害です。関係性というのは、二人の間で生じるものです。親の関わりだけでは、決まらないのです。
二人のこどもの子育てをしているとき、同じ親が同じ対応をしているのに、一方の子には愛着障害の症状が出て、もう一方には出ない。そんなケースがあります。これは、「相性」の問題なのです。相性が悪いことで、お母さんの愛情がこどもに伝わらない、あるいは、こどもの気持ちを、お母さんがくみとってあげられない、ということが起こるのです。
愛着障害は取り戻せないの?愛着形成も修復も、親にしかできないの?
愛着形成には、臨界期や、敏感期があり、愛着障害になってしまったら、取り返しがつかない、今からでは手遅れだ、といわれていた時代があります。これもまちがった理解です。愛着障害は、いつでも取り戻せます。
また、愛着は、形成も修復も親にしかできないから、親が変わらなければ、愛着障害はなおらない、とも言われてきました。これも、まちがった理解です。誰にでも、形成・修復が可能です。愛着形成は、親だけではありません。先生や友達、まわりのいろんな人と結ぶものです。
「愛情の器」づくりとは?
愛着障害のこどもの支援は、どのようにすればよいのでしょうか。そこで提唱しているのが「愛情の器づくり」です。
大事なのは、まず『1対1』の関係性をつくることです。ここではキーパーソンと呼びますが、これを決めてから支援を行うことです。
支援する上で、もっとも大事なのは『先手』で関わることです。こどものしてほしいこと、やりたいことを、察して先にやってあげる。
そのうえで、こどもの『感情学習』を促すのです。それは、感情を問うのではなく「言い当てる」のです。愛着障害のこどもに「いまどんな気持ち?」と聞く行為は、関係性を悪化させます。「いま、イヤな気持がしてるんだよね」と察して言い当てるのです。自分の気持ちをちゃんとわかって、口にしてくれる人が、一番安心できる人なのです。そういう存在の人との関係をつくることが、愛着障害のこどもの支援で一番大事なことなのです。
『1対1』『先手の関わり』『感情学習』この3つが、これまでの支援の現場の中で見出した愛着障害の支援における「愛情の器づくり」のポイントです。
米澤先生のお話を聴いて
今回、米澤先生の講演をお聞きして、多くの発見がありました。これまで、発達障害と愛着障害について、「こどもの反応」という視点で、その違いを考えたことがなかったことを、反省する思いです。現場で、愛着障害のこどもの支援を実践されている米澤先生ならではの視点だったと思います。
重要なのは、愛着障害は、「感情」の問題なのだということです。感情をともなうからこそ、人間関係をとおしてしか支援はできないのです。そして、乳幼児期の母親との愛着形成につまづいているからこそ、1対1の支援が基本なのであり、「母親がこどもにしてあげるような対応」が基本になるのだと思います。
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東京大学 遠藤利彦 先生による講演「アタッチメントと子どもの発達 ~親子関係・保育・教育におけるおとなの役割~」https://www.naik.jp/life/special/04.php