第10回育児セラピスト全国大会2019~この10年の子育て環境を振り返り、これからの10年を見据える~
東京会場:ランチミーティング
東京会場:お悩みスーパーバイズ
今年も東京・大阪の両会場でスーパーバイズを行いました。
「今抱えている問題・悩み」をグループごとに話し合ってもらい、それに対して当協会理事長の廣島のスーパーバイズのもと、参加者全員からも意見をもらう、というものです。
Aグループ
教室に参加している5歳のお子さんで、発達障害で療育にかよっているのですが、(並列の)2語文が理解できなくて、やりあぐねています。たとえば、「ドアを開けて」は通じますが、「ドアのノブを引いて、開けて」と言うと、ドアを開けることができなくてパニックになってしまいます。お母さんに療育の時の様子を聞いて参考にしようと思っても、何をしているのか把握されていません。このような場合、こちらとしてはどのような対応がしてあげられるのでしょうか。
グループ内での話し合いで出た意見では、お子さんというよりは、お母さんの方にしてあげられることがありそうだということ。そもそも、お母さんが、自分の子どもの発達障害を認めきれていないのではないか。そこから目を背けてしまって、無関心な態度になっているのではないか?あるいは、療育に通っているから大丈夫、と丸投げになっているのではないか?そうした前提をもとに、お母さんの方に何かしらの働きかけをすることで、お子さんの状況の改善にもつながるのではないか、と話し合いの中で導いてくれました。少し詳しく状況をお聞きすると、さいしょに保育園の先生が気づいて、診断してもらうと自閉症と言われ、療育に通うようになって2年経つという状況のようです。お母さんは、当初から一貫して子どもの自閉症には興味を示さない態度だそうです。
自閉症児の発達支援を、療育にアウトソーシングすることは、不可能です。お母さんに主体的に関わってもらうのが一番よいのは、言うまでもありません。しかし、その気のないお母さんをその気にさせるのは、一筋縄ではいきません。言葉かけやアドバイスでは限界があります。だからこそ、やりあぐねているわけです。
これについての一つの突破口が、前日のアタッチメント心理カウンセラー講座の中にありました。支援者が子どもに働きかけて「うまくいったこと」を、お母さんと共有する、という方法です。その際、「あったこと(問題)」と「行ったこと(対応)」と「うまくいった結果(結果)」の3つをセットで共有することが重要です。
「お母さん、今日〇〇くんは、こういう問題行動がありました。そこで、こういう対応をしたら、〇〇くんは、ちゃんとうまく出来ましたよ。今日の成長は、とても大きな一歩だったと思います。」こんな報告を重ねることで、徐々にお母さんも興味を持ちます。「どうすれば、うまくいく」という成功の対応があるので、家でそれをやってみようと思います。スイッチの入った瞬間です。そうして、実践してうまくいくと、それがお母さんの成功体験になります。そして、「自分の子どもは、確実に成長することが出来るんだ」ということが実感できます。
つまり、支援者が子どもに働きかけて、まずは子どもを変えて、子どもが変わったことをきかっけに、親が変わる。そういうアプローチもあるのです。
では、今回の「ドアのノブを引いて開けて」が理解できない場合の具体的対応として、どんなことが出来るのでしょうか。それは、単語を一つ一つ区切って指示するのです。「ドアはどこ」「ノブってどれだっけ?」「これ引いてみて、引くときはどうするんだっけ?」「ノブを回すんだよね」「じゃあ引いてみて」「あ!ドアが開いたね」すべてが、かならず出来ることの積み重ねであり、小さな成功体験です。そのうえで、ゆっくりと区切って「ドアのノブを引いて開けて」と言えば、先ほどの成功体験の積み重ねと、この指令の意味がつながってきます。このように、最小の簡単な行動に分解してあげれば、必ずできるようになります。
そして、このことを、お母さんと共有して、お母さんの興味のスイッチを入れてあげてください。
Bグループ
一つは、サロンに来るお客さん(お母さん)に施術をしていると、夫婦間の悩み相談になることも多いのですが、どのように対応するのが良いのかを知りたい。もう一つは、歯科医院で、子育て支援の一環としてベビーマッサージ教室をやることになりました。経営者からの要請ではじまり、担当になったのですが、さまざまな制約があったり、新しいことに対する反対意見もあり、なかなか前に進まない状況になっています。3つ目は、現在、保育園でベビーマッサージ教室をやっていますが、もっと自由に教室運営できる場として、個人教室も並行して挑戦しようと考えています。横浜市は、公の場所は、制約が厳しいので、自宅で始めようと思いますが、うちでは猫を飼っているため、アレルギーのことが気にかかります。どうしたらよいでしょうか?また、そうした場合の対応として、誓約書などを用意するとよいのでしょうか?
一つ目のお悩みについては、グループ内で解決できたようです。まず、施術をとおして心が開かれているということなので、とても良いことであることを確認しました。一方で、その人の人生を背負うことは出来ないので、最後は本人にゆだねることが重要ではないか。では、何ができるかと考えると、「話を聴いてあげる」つまり傾聴につきるのではないか。お母さんたちは、答えを求めているのではなく、ただ話が聞いてもらいたいだけということが多いと思います。話すことによって、ずいぶん気持ちが楽になります。そうすれば、自分で答えを見つけ出してくれるのではないか。
これは、まさしくその通りだと思います。「答えは本人が必ず持っている」というのは、カウンセリングの基本です。これについては、グループ内の話が、本質をついた議論になってくれたようです。付け加えることはありません。
二つ目のお悩みについては、くわしい経緯をお聞きしてみました。歯科医院の経営者の方が、思いつきか聞きかじりで、ベビーマッサージ教室を導入しよう、と言い出し、「予算をつけるからやってよ」と相談者に丸投げしてきたそうです。しかし、いざやろうとすると、誰も話に乗ってこなくて、何も進まない状態とのことです。
こうした話は、よく耳にします。相談者さんがベビーマッサージ教室に対して乗り気なのであれば、まずは一人運営で始めるのがよいと思います。そうすれば、反対意見の人を巻き込む必要もありません。たとえば、今回発表してくれたマールさんのサロンでは、基本的に1対1で教室を開いています。その方が、深い関係性がつくれるし、一人運営ができる利点もあります。このマールさんの事例を院内で発信しつつ、一人で、少人数クラス制のベビーマッサージ教室をはじめればよいのです。そうすると何が起こるか。楽しそうに、イキイキとやっている相談者さんを見て、賛同者が現れるのです。それを期待する必要はありませんが、たいていそうなります。そうして、成功事例をつくってしまえば、院内での発言権は強まりますので、ますますやりやすくなります。小さくでいいから、一人運営で、最初のクラスをはじめてみてください。
三つ目のアレルギー問題ですが、個人教室でやられる場合は、それほど気にする必要はありません。アレルギーの管理責任は、サービス提供者ではなく、お母さんの方にあります。サービス提供者は、情報開示までです。「猫を飼っているけど、教室に猫が入ってくることはないですよ。一度ためしに来てみてください」というように、きちんと開示すれば、問題はありません。教室というのは、「類は友を呼ぶ」の論理なので、猫好きのお母さんが集まって、猫談義に花を咲かせるかもしれません。
食べ物を提供する際も、考え方は同じです。個々のお子さんが何のアレルギーを持っているかを把握する必要はありません。こちらが、「材料に〇〇を使っていますよ」と開示すればよいです。
誓約書というのも考えられますが、大手の幼児教室ではないので、個人教室でそこまでするのは、現実的ではありません。書かされるお母さんの方も引いてしまうでしょう。かえって、トラブルを回避しようとする姿勢が浮き立ってしまいます。きちんと事前に、開示すべきことを開示しておけば問題ありません。
Cグループ
お友達のママの悩みです。小学2年生のお子さんで、お母さんと一緒じゃないと学校にいけません。特にいじめなどの問題があるわけではありません。現状、お母さんがいっしょに行ってあげていますが、いつまでこれが続くのか、お母さんは不安に思っています。
これについて、グループ内の話し合いの中で、まず重要なのは「何が原因となっているのか」を見極めることが必要なのではないか。学校なのか、家庭なのか。そのうえで、解決方法を見出していけばよいのではないか。
ここでも、グループ内の議論で、明確な方針がきちんと出せていると思います。まず、お母さんを直接知っているのであれば、その方の養育背景を見立てます。もし、特に違和感や問題がなく、同様に学校の問題もなさそうであれば、「学校にいけない状態」は一時的なものだと見立てられます。
単に準備が出来ていなかったのかもしれない。何かの出来事がきっかけで、不安な状態に逆戻りしてしまったのかもしれない。いずれにしても、一時的なものであることが多いです。
そういう場合は、子どもが「もういい」という気持ちになれるまで、登校に付き合ってあげるのが望ましいです。その過程で、担任の先生や上級生など気の許せる他人にバトンタッチできるようなら、バトンタッチする。最初は、教室まで、次は下駄箱、門、中間地点・・・というように、バトンタッチの場所を家に近づけていく方法もあります。
Dグループ
自分が発達障害の子どもを育てる母親なので、発達支援をはじめ、さまざまなことを学んできました。それを人に伝えたり、悩んでいるお母さんを支援したりしていきたい気持ちがあります。でも、いまだに何もできていないし、その自信もありません。一歩を踏み出せないで悩んでいます。
このお悩みに対して、この日の午前中におこなったパネルディスカッションの中で、鎌田先生が、非常に良いことをおっしゃっていました。
「当事者がいちばんの支援者なんです。」
発達障害をもつお母さんの一番の支援者は、同じ立場の当事者である相談者さんです。わたしが、説得力のある言葉を並べ立てるよりも、相談者さんが、お母さんにかけてあげる「たった一言」の方が、どれほど力があるか。
ただし、いまは、ご自身のお子さんの子育てが大事ですので、これまで学んだことを、まずはお子さんにフィードバックしてあげてください。そして、お子さんが大きくなって、余裕が出来てきたら、こんどは、同じように悩むお母さんを支援してあげてください。
伝える側になったとき、今、お子さんにやってあげていることは、必ず自信になり、説得力になります。
Eグループ
お母さんに安心してもらいたくて「大丈夫ですよ!」と声かけをした時に、「何が大丈夫なんですか?」と強い口調で返されてしまったことがあり、声かけの難しさを痛感しています。
もう一つは、保育士さんの相談で、おうちでの子どもの様子を心配しているお母さんに対して、子育てをしていない自分には、家庭の様子がイメージできません。そんなとき、どのように対応すればいいのでしょうか?
一つ目の質問について「大丈夫!」と言った時の状況を具体的に教えてもらいました。
保育園で、親子体操を指導しているときに、あるお子さんが暴れてしまったり、みんなと同じ行動がとれなくて、見ていたお母さんが、それを気に病んでいました。「うちの子、あんな風で大丈夫かしら」と感じておられるようでした。そこで、相談者さんは「大丈夫だよ!」と声かけをしたところ、「何が大丈夫なんですか?」と切り返されてしまいました。
これまで「大丈夫だよ!」は魔法の言葉として使っていたのですが、はじめて機能しない体験をして、言葉かけの難しさを痛感しました。どうやって使えばよかったのでしょうか。
これは、「大丈夫!」という言葉の使い方の問題です。「大丈夫だよ!」は、確かに魔法の言葉なのですが、だからといって、呪文のように言葉にして伝わるものではありません。
「大丈夫だよ!」の前や後にどんな文脈があるかが重要です。
「あのくらいは大丈夫だよ!うちの息子なんか、もっと落ち着きなかったんだから。」というように、実例を示して、大丈夫な理由を伝えてあげれば、お母さんは、心から安心することが出来ます。「うちの子だけじゃないんだ」という安心感と、「そのうち問題なくなるんだ」という展望が伝わるからです。
「大丈夫だよ!」は言葉が魔法なのではなく、「大丈夫を伝えた状態」が魔法なのだと理解しましょう。
2番目の質問について、グループ内では、お母さんの話を聴いてあげることそのものに、すでに大きな意味がある。その中で、「お母さんは、その時どう思ったんですか?」というように、お母さんに寄り添った質問を返してあげることで、十分ではないか。そもそも、お母さんは答えが欲しくて相談しているわけではない。そうしたやり取りをとおして、ご自身で答えを見出してくれるのではないか、という話になりました。
この質問に対しては、グループ内の議論が本質をついています。非常によい議論をされておりましたので、ひとつだけ私の方で付け加えました。
独身の保育士さんは、たくさんいます。家庭のイメージが出来ないのは当然です。そういうときは、すなおにお母さんに、具体的な様子を聞いてみましょう。
「わたしまだ独身で、子育てしている家庭の具体的なイメージが出来ないんです。その時のおうちでの様子を、もう少し詳しく教えていただけませんか?」
具体的なエピソードを聞けば、次の一言の切り口が見えます。
「そうですか。〇〇ちゃん保育園では、ちゃんとできてるから、その時は機嫌がわるかっただけかもしれませんよ」あるいは
「そうですか。たしかに〇〇ちゃんは、それ保育園でも苦手ですね~。私も園にいるときは、気を付けてみてますんで、お母さんも、ご家庭の様子また教えてくださいね。」
となるかもしれません。
独身の保育士さんは、子育て経験がないことを引け目に感じてしまうこともあると思いますが、そんな必要はありません。保育士さんだって、自分の子育てには、人一倍悩むし、うまくいかないものです。大事なのは、第三者の意見を言ってあげられることです。子育ての当事者であるお母さんにとって、第三者の意見がもっともありがたいのです。そこに子育て経験のあるなしは、関係ありません。自信をもって接してください。
【集合写真】東京会場