第10回育児セラピスト全国大会2019~この10年の子育て環境を振り返り、これからの10年を見据える~

シンポジウム
東京会場

シークレット・パネルディスカッション
~この 10 年の子育て環境を振り返り、これからの 10 年を見据える~

写真左から廣島理事長、寺下 謙三先生、細井 香先生、鎌田 怜那先生

シークレットの部分を、いま明かします

今回「シークレット」と銘打って、パネリストを明かすことなく当日を迎えました。実際にパネリストとしてお呼びした一人は、育児セラピスト1級の中の「命より心」のビデオで観たあの寺下謙三先生です。寺下先生は、10年前の第1回全国大会でも、パネリストとしてご登壇いただき、医学の立場から、お話を伺いました。

二人目は、東京家政大学の保育士養成課程で教鞭をとっておられ、会場となった淑徳大学では、当協会のベビーマッサージと育児セラピスト資格取得のための専門科目「育児学」を教えておられる細井香先生です。細井先生も、第1回全国大会で、パネリストとしてご登壇いただき、保育士養成、保育士の現場の立場からお話を伺いました。

三人目は、臨床心理士であり、自らもアタッチメント・ベビーマッサージ教室をはじめとするママ支援を行い、発達障害児の支援もされている鎌田怜那先生です。鎌田先生には、子育てにおける心理臨床の現場の立場から、お話を伺いました。

そして、ファシリテーターは、わたし廣島が務めさせていただきました。

会場が一体となった白熱した「場」にしたかった

「理想論だ!」と言われるかもしれませんが、パネリストが順番に、参加者に一方通行的に発信するのではなく、観客も参加して一体になるライブハウスのような場づくり。パネリストと会場の垣根はなく、自由に意見や質問や悩みが飛び交い、時にはパネリストの方写真左から廣島理事長、寺下謙三先生、細井香先生、鎌田怜那先生2019.10.27開会式symposiumTOKYO6も、会場の意見から刺激を受ける。そんな白熱した「場」。

そのためにした場づくりの工夫などは、2019年11月2日発行のメール「全国大会東京を終えて」で詳しく述べていますので、そちらをお読みください。

私も、パネルディスカッションに呼ばれる機会は多いのですが、今回のシークレット・パネルディスカッションは、手前味噌になりますが、「わたし史上・最高の、理想のパネルディスカッションだった!」と豪語できるものでした。

それは、ひとえに、参加者のみなさんが、パネリストの方に踏み込んできてくれたおかげです。これまでの10年の関係性がなしえる業(わざ)だと思っています。素敵な「場」にしていただいて、本当にありがとうございました。

それでは、ディスカッションの内容をお読みください。

ご参加いただけなかった方々には、伝わりきらない部分が多いかもしれません。レジュメ的なまとめなので、空気感まではお伝えできておりません。また、その場にいた人でないとわかりにくい話は、わたしの方で意訳してお伝えしております。この辺は、言語でお伝えする限界ということでご容赦を(笑)!

親の選択肢が無限に存在するという現代の子育てにおけるストレスと重圧

寺下謙三先生

まず、「この10年を振り返る」というテーマで、それぞれの分野のお話を聴きました。寺下先生からは、医療の分野でも、女性の医者がこの10年で増えていて、たくさんの女医が活躍し、子どもを産んだあとも働いています。医者の業界でもそうなのだから、他の業界はもっとだと思います。女性が結婚、出産後も働くとか、共働きというのは、この10年で相当に進んだのではないかと実感します。

細井香先生

細井先生からは、これに関して、共働き子育て家庭の増加に比例して、幼児教育の苛烈化や、子どもの教育を塾や幼児教室まかせにしてしまう親の問題が、この10年で深刻になっているという話がありました。

ここには、共通して「忙しすぎる親」の問題が横たわっているようです。子どもを産んでからも、キャリアを続け働き続ける選択肢が増えたのは、歓迎すべきことです。一方で、子育てに費やす時間が減り、その埋め合わせとしての幼児教育や習い事の苛烈化が起きています。また、子育てのアウトソーシングのような側面も見え隠れします。はたして、これは悪いことなのでしょうか?

発達障害大ブームの時代を、どう捉えるか

鎌田怜那先生

これに関して、お母さんの実態を、臨床心理士の鎌田先生に聞きました。「こうした背景の中で、発達障害や愛着障害が懸念されます。発達障害は、いまや大ブームと言ってよい状況で、NHKでも特集が組まれるほどです。臨床心理士の立場から言うと、発達障害の多くのケースが、愛着障害だとみられます。そういう影響も考えていかなければいけないでしょうね。」

さらに、鎌田先生の関わったケースでは、「お母さんの中には、発達障害の診断に積極的で、小学校に入ったら支援級に入れることを希望して、発達障害の診断を促す人もいる」そうです。こうしたお母さんのニーズは、教育のアウトソーシング(自分では手をかけたくない心理)なのかもしれません。

これについて、会場の保育士さん(関東)から、「うちの園では、お母さんたちは、お子さんの発達障害の診断を、何が何でも認めないで、なるべく普通級に進学することを希望します。」との意見がありました。そういうお母さんは、療育に行く代わりに、幼児教室に通って発達の凸凹を修正しようとしたりします。

こうしたお母さんの真逆の心理状態は、端境(はざかい)期の特徴なのかもしれません。

愛着障害なのか、発達障害なのか、現場はどう対応したらよいの?

これまでの話に関連して、会場の二人の方から同じ方向性の質問がありました。

◆会場からの質問

『幼児教室をやっているのですが、最近は、生徒さんに発達障害児のお子さんもいます。これまでの話を聴くと、愛着障害のケースも多いとのことですが、発達障害なのか、愛着障害なのか、われわれとしては、それをどう判断していったらよいのでしょうか。また、その子たちにどのように対応していけばよいのでしょうか?』

この質問には、まず「医療判断」の立場から、寺下先生に話をお聞きしました。

まず、発達障害なのか、愛着障害なのか、医者としてはっきりしたことは言えないのが現状です。これは、ガンなどの病気も同じです。医者によって、診断も治療方針も分かれることはありあますし、何が正しいとは言えないのが医療です。10年後には、こっちが正しかった、などということもあります。例えば、認知症というのは、どこからが認知症で、どこまでが、単なる加齢による認知の低下なのか、明確な線引きはありません。それと同じです。どこからが発達障害だとは言えない。例えば、医者仲間で、自分たちの多動傾向の特徴を、『おれたち発達障害だな』なんて、良い意味で表現することもあります。つまり、あまり、診断名や言葉に惑わされる必要はないのです。目の前の子を見てあげればそれで良いと思います。そこで一つ提案なのですが、『障害』の部分を『特性』と言い換えるようにしてみたらどうでしょう。『発達障害』ではなく『発達特性』、『愛着障害』の代わりに『愛着特性』と。そうすれば、その子の特性として、目の前の子どもを見てあげやすいのではないでしょうか。

◆会場からの質問

『私の息子は発達障害だと思うのですが、お医者さんは、発達障害ではなく、発達遅延だと言います。でも、発達が遅れているだけでそのうち追いつくようにも思えません。発達遅延だと信じたい気持ちもありますが、発達障害だと診断をもらえば、踏ん切りがつく気もします。この状況をどう理解すればいいのでしょうか』

発達障害の多くが愛着障害だとすると、わたしの育て方に問題があったの?

会場の雰囲気も活発になってきて、さらに意見があがりました。

「私は、3番目の子どもが発達障害で生まれました。自分でもいろいろ勉強して、息子にはできる限りのことをしているつもりです。むしろ上の子に手が回らないことが申し訳ない思いです。でも、発達障害の多くが、愛着障害だと言われると、わたしの子育てが間違っていたのか、もっとできることがあったのかと思ってしまいます。」

これについては、私から米澤先生の「愛情の器」の話をさせていただきました。米澤先生は、愛着障害の子どもの支援を現場で数多くされている研究者です。

子どもには、愛情を受け取る器があるのですが、それには4つのタイプがあります。わかりやすいのは、通常の愛情が入りやすく貯まりやすい器です。これに対し、愛情の器の底に穴が開いていて、もらった愛情がこぼれてしまうタイプや、器状になっていなくて、そもそも愛情が貯まらないタイプ、器の口が極端に小さくて、愛情が入りにくいタイプがあります。どれも、その子の特性です。愛着障害は、育て方だけの問題ではないのです。その子の持っている愛情の器の問題でもあるのです。

そもそも質問者さんのお子さんが発達障害なのか、愛着障害なのかを、にわかに診断することはできません。少なくとも言えるのは、質問者さんの子育ての話をお聞きして、その人となりをみる限り、養育の問題ではないことが、わたしには見て取れました。そのことをお伝えしたうえで、「仮に愛着障害の傾向があったとしても、それはお母さんの育て方のせいじゃないですよ。」ということを強調しました。

お子さんの愛情の器の問題かもしれないし、お母さんとお子さんの相性の悪さによるものかもしれません。そういうこともあるのだということを、わたしたちは知ったうえで、支援をすすめる必要があります。この問題は、わかりやすい解答はできない問題ですので、ここで言えるのはこれくらいでしょうか。

<文責>廣島大三

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