第9回育児セラピスト全国大会2018「心を救うママケア」
現場のお悩みスーパーバイズ:東京
A班:ひとりで教室運営、集客やホームページどうすればいいの?
A班のお悩みは、ひとりで個人教室をやっている方からのもの。
「集客をどうやっていいのかわからない、ホームページもどう作っていいのかわからない、何を勉強してよいのかもわかりません。また、一人しかいないので、教室の様子を写真に撮ったりできません。人を雇うにも、予算が・・・」
このお悩みについて、同じように一人で教室をやっている方に、まずは聞いてみることにしました。手を挙げて下さったのは、以前に優秀実践発表もしていただいている本郷容子さんです。
「私の場合、ベビーマッサージ教室でしたが、まず、知り合いに声を掛けて、最初の1回をやらせてもらいました。すると、来てくれた方が、『次はいつ?』という具合になり、別の方を誘って、また来てくれるようになって、定期的に開く流れが出来てきました。最初は、特に集客ということは、意識していなかったかもしれません。ホームページも最初はありませんでしたし、SNSもやっていませんでした。今は、必要に迫られて、何とか作りましたが・・・。」
個人教室の集客は、「リピート」と「クチコミ」に尽きます
本郷さんのスタートアップの時のこのお話で、回答が出てしまいました!少し解説しますと、ベビーマッサージを始めとする個人教室の集客は、「リピート」と「クチコミ」という型に尽きます。これまでの優秀実践発表を聞いても、広告やチラシがうまく行ったという事例は、聞いたことがありません。もちろん、効果ゼロではないので、「やるな!」とは言いませんが、費用や手間、時間に見合うとは言えません。
では、その「リピート」と「クチコミ」を作る秘訣は?
1. まず「教室を開くこと」。2. そして、来てくれた人に「来てよかった!次もやりたい」と思ってもらうこと。3. それから、「よかったら、お友達も誘ってくださいね」とお願いする。この3つに尽きます。もっとも重要なのは、2番目です。そのために出来る工夫がたくさんあります。良い場を作ることはもちろん、育児相談に乗ったり、お茶会をしたり、みなさんが、当たり前にやっていることです。これらは、すべてリピート作りのためであり、クチコミを作るためのものなのです。
「リピート」と「クチコミ」で、軌道に乗っているけど、もっと集客したいんです
もしそうだったとしても、2については、再度「リピート」と「クチコミ」の観点から再考してみることは、非常に効果的です。このことを意図的に組み込むと、教室の質の次元が変わります。
その上で、「もっと」となれば、間口を広げることです。今回発表してくれた開業助産師の松﨑さんのように、公共の子育て支援や産院などで、教室をやらせてもらうのです。これらは、ボランティアでも構いません。そこで知り合ったお母さんに、自分のベビーマッサージ教室をPR出来るからです。この段階に来ると、チラシや名刺など、アクセスできる媒体が必要ですし、ホームページも必須です。これが、本郷さんの言う「必要に迫られて」ということなのです。
ひとりで運営していると、写真を撮ることもままなりません
これについては、答えは簡単です。生徒さんを運営側に巻き込むのです。もともとみなさんのファンですので、喜んでお手伝いしてくれます。もう一つは、インストラクター同士が、共催するということも出来ます。
人を雇うのではなく、みんなが繋がるような運営をすれば、関係性も深くなり、これまたリピートやクチコミにつながるのです。
B班:A班の回答で解決しました
これが、全員参加型のスーパーバイジングのおもしろいところです。他の方の悩み解決の過程で、自己解決が起きるのです。
C班:発達障害の子どもにどう対応していいか、また親御さんにどう言って良いのか苦慮している
C班は、若手保育士のこの悩みに対して、班内で自己解決していました。私や他のメンバーの出る幕なく解決ということでした。この班は、若手保育士にベテランのお姉さまがたという組み合わせだったので、このようにまとまったのでしょう。
解決法というのは、発達障害について勉強することで、「発達支援アドバイザー講座を受ければ、発達障害の基礎知識や、子どもの対応から親の対応、発達障害児のための療育メソッドまで学べるよ」ということでした。(ありがとうございます)
D班:手のかかる子どもが多くなってきて、保育士が対応しきれない
1対1でついていてあげないといけない子どもを、どうすればいいの?
「保育士が1対1でついていてあげると、おとなしいのだけど、そうでないと、悪さをしたり、問題行動をしたりする子どもがいます。一人だけなら対応できるのですが、こういう子が何人もいて、保育士の手が足りません。何かよい方法はないでしょうか?」
最近、よく耳にする事例です。こういう子が、必ずしも発達障害や多動であるとは限りません。衝動的にそうなっているというよりも、大人の注目を引きたいという感情の表れかもしれません。むしろ、このケースは多いでしょう。
相手にしてもらえないよりも、問題を起こして叱られた方がイイと思ってしまう子どもの心
普段、お母さんに、充分に相手にしてもらえていなくて、「もっと自分のことをかまって欲しい」という気持ちがあるのです。そうすると、子どもは、相手にしてもらうために、わざと突飛な行動や問題行動をします。そうすれば、(たとえ叱られるとしても)相手してもらえるから、それを求めてしまうのです。
こういう子には、いっぱい「ギュー」っとしてあげて、いっぱい話を聞いてあげることが必要です。とは言え、保育士が、その場で対応してあげても限界があります。子どもの本当の寂しさは、家庭に存在する場合が多いからです。また、保育士の手が行き届かない問題も残ります。根本解決は、お察しの通り、お母さんです。
お母さんを巻き込めれば、根本解決!ただし、伝えるのにも、知識と技術が必要です
でも、こういうことは、いきなりストレートにお母さんに言ってしまったら、怒らせてしまったり、不快な思いをさせてしまったりして、関係性が悪くなります。では、どうするか?
時間をかけて、お母さんに働きかける。これしかありません。そのためには、保育士自身が、対人援助や発達、愛着について、ある程度の知識を持っていることが必要とされます。つまり、お母さんの意識を変えるのに時間と労力をかけて、関係性を作ったらやっとスタート地点。実は、ここまでが大仕事なわけです。いざ、スタート地点に立ってしまえば、保育士の役割りは、お母さんのサポート。そして、家での母子関係が好転すれば、保育園でも落ち着くようになります。
残念ながら「お母さんを変える」必殺技はありません。やれるのは「実践」と「理論」の両建てアプローチに尽きます
園での子どもの問題行動には、少なからず母子関係や家族関係が影響します。これらは、園だけの努力では乗り越えられません。多くの場合、お母さんの意識を変える必要が生じます。
ベビーマッサージやキッズマッサージ、アタッチメントジム、あるいは今年やった子育てマインドフルネスといった「実践」は、お母さんの意識が、自然と良い方向に変わるための実践メソッドです。
心理学の「理論」をいくらかざしても、お母さんの心は動きません。しかし、「実践」をやっただけでは、具体的な実感にはつながりません。「理論」と「実践」の両建てが必要です。
実践のあとに行う、振り返り、あるいは、悩み相談。その際に、心に起きたことを理論として伝えたり、子どもの変化を解釈してあげたりすることで、お母さんは、腹に落ちて、少しずつ意識が変わっていきます。
F班:園長の私以外、みんなが新人や若手保育士、知識も経験も自信もなく現場に立つ毎日です
ある民間保育園の園長先生のお悩みです。
「園長(私)以外は、新卒や若手保育士で運営しています。当然、彼女たちは、知識も経験も浅く、自信もないままに、子どもたちを担当しています。毎日の仕事の中で指導してはいますが、今の子は強く言えば辞めてしまいます。また、教えてもなかなか身に付かないことを、もどかしくも感じています。こうした状況でのスタッフマネジメント(職員教育)に悩み苦慮しています。」
園長の悩みは、園長に聞いてみよう!
会場には、現役園長から、元園長まで、何人かの園長先生がいらっしゃいました。その中で、真っ先に手を挙げていただいたのが、高橋 摩美さん。秋田県で、自ら保育園を立ち上げ、園長を務めています。
園長の覚悟ひとつが、解決のカギ
高橋さん曰はく「まずは、園長の覚悟が重要。新人は、どうしてもミスをする。それらのミスすべてに対し、最後は園長が責任を取る。そのためには、園長自ら現場に出て、保育に関わる。現場に降りれば、スタッフが何に悩み、何を困難に思い、どこで失敗しているのかが見えてきます。その上で、必要な指導をする。
もう一つ、園長が、勉強して、知識を仕入れて、それを若手スタッフに教えることが重要。協会の講座を受けたら、その学びを若手に分けてあげればいい。例えば、定期的に勉強会を開いたりして、知識をつける機会を作ってあげるというような形で。その際、現場の実例を交えて話してあげれば、より伝わります。
とにかく園長と若手のみの園なら、園長が先頭に立って、走るしかありません。そうでなければ、新人ばかりの園では、お母さんたちも安心して預けられないのでは!」
高橋さんのアドバイスは、とても明快で、的を射ています。保育園の創業者だけのことはあります。私も、概ねの解決策は、高橋さんの言うこの2つに尽きると思います。「園長自ら、現場に出る」「園長自ら知識を仕入れ、定期勉強会で若手におろす」これが、ちゃんとできれば、園は格段に良くなります。
とはいえ、会社組織であるが故、ワンマンになれない苦労がある
一方で、この場合、会社組織であるが故の苦労も伺えます。この園長の場合、地元に4園あり、何年か経つと、配属される園が変わるそうです。すると、ようやく体制が固まった頃には、園が変わって、またイチからやり直し、という可能性もあります。オーナー園長と雇われ園長の違いが、そこにあります。
会社組織だからこその展開も考えられる
でも、考えようによっては、会社組織だからこその展開があります。オーナー園長との違いは、会社組織では、「出世」が見込めるということです。
ある園長が就任すると、たちまちその園の新人教育が進み、園の評判が良くなった。次の園でも、また次の園でも、同じことが起こったとしら。その人は、もはや園長ではなく、全国の園長の中の「長」のポジションになり得ます。会社で言うなら、役員クラスに相当するのではないでしょうか。そんな未来像を描いてみることもできますね。
勤めている療育施設を辞めることに。しかし施設長の猛烈なネガティブ反応に遭い、どうしていいかわかりません
「現在、療育施設に勤めていますが、老齢の母の体調悪化から、今年度で、この仕事を辞めて介護に専念する決心をしました。そのことを、施設長に伝えると、すごい剣幕で怒りをあらわに、罵倒されました。そのような反応は、予想外だったので、正直どうしていいかわかりません。何かアドバイスをいただけませんでしょうか?」
この方(Sさん)のお悩みについては、私が二つの視点からお答えしました。一つは、施設長さんの心理と、そのような態度が表出した理由について。もう一つは、ご自身の心の置き所についてです。
(実際には、Sさんが仕事を辞める経緯や、Sさんのこれまでの療育施設での働きぶり、ポジションをヒアリングしたうえで回答しています。)
施設長は、あなたを、とても頼りにし、これからも一緒にやっていきたかった、その反応が怒りとなって表出しているようです
お話を伺うと、施設長さんは、Sさんのことを、とても頼りにしていたのだと推察します。(Sさん「そんなバカな」という顔)
ここで、トップ特有の心理についてお話しましょう。
『職員が辞めるときのトップの反応』:有能だと認めている職員の場合、①全力で引き留める、あるいは、辞める以外の代替案を模索する、②それでも辞める意志が変わらないことがわかると、「怒り」が表出する。ちなみに、どうでもいい人なら、何の感情も湧きません。積極的に辞めてもらいたい人なら、辞める事実を具体化していきます。
つまり、施設長は、Sさんを認め、頼りにしていたのです。だからこそ、辞める意志が固いことがわかると、Sさんが居なくなることが不安になり、そんな不安な状況を作ったSさんに怒りが湧いてしまうのです。
(ここで、会場の園長をはじめ、トップと思われる人たちは、大きくうなずきます)
過剰なネガティブ反応は、単に「辞められて困る」だけでなく、「未来の希望を奪われた」感情の表れ
もしかすると、施設長さんは、これからSさんと取り組みたい「新しい何か」があったのではないでしょうか。(Sさん「そう言えば・・・」という顔)施設長さんの過剰なまでのネガティブ反応は、単に「辞められて困る」というレベルではなく、「未来の希望を奪われた」感覚があったようにも見えます。
Sさんは、このネガティブ反応を、どう受け止めれば良いのか
まず第一に、施設長の本音として、「Sさんに辞めて欲しくない」「Sさんを認め頼りにしている」「Sさんといっしょにやりたいことが、まだまだある」という気持ちがあることを受け止めましょう。ネガティブ反応は、その裏返しである。これが、感情の正しい認知です。
その上で、施設長の反応を、許せるか、否か。許せなくてもかまいません。それが、今のSさんの感情です。大事なのは、今の自分の感情に気付いているということです。この「感情」については、マインドフルネス瞑想を使った処理がおススメです。この感情が、瞑想を通してどのように変わっていくかを観察してみるのもよいでしょう。
トップの心理のさらに上に立ってみる
Sさんは、施設長よりも年長者です。だからこその、いたたまれなさもあったでしょう。しかし、相手は、立場は上でも、自分よりも経験は少ないのです。ここは、大人になって、Sさんが居なくなる不安や落胆を想像して、相手の心に寄り添ってみましょう。
「不安だったね」「がっかりしたよね」「私といっしょに仕事したかったんだよね」
これは、相手の心理を、さらに上から包み込む方法で、このケースでは有効です。徐々に罵倒された時のモヤモヤした感情は薄れ、施設長への同情のこころさえ芽生えるでしょう。ここでも、マインドフルネスで、この感情に注目してみても良いと思います。
以上、すべての班の「お悩み」をおききしました。こうして全員参加型のスーパーバイジングを行ってみて、他の班の回答が別の班にも当てはまったり、誰かの発言が、新たな質問を生んだり、悩みに対する経験者の意見が聴けたり、本当に身のある時間でした。会場で実際に起きたことを、こうして文章で伝えるには限界がありますが、その一端でもお伝えできれば、何かの参考にしていただけるかと思います。