北欧 フィンランド、スウェーデン 最新「幼児教育・子育て支援」事情
スウェーデン・ストックホルム市
ストックホルム大学
今回の視察の最後は、ストックホルム大学で、プレスクール・ティーチャー(日本で言う保育士・幼稚園教諭)を養成しているイングリッド・エングダール教授を訪ねた。彼女は、スウェーデンのプレスクール・カリキュラムの作成にも関わっており、スウェーデンの幼児教育の概要や大きな流れを聞くことが出来た。
先の公立プレスクールのレポートでも触れたように、スウェーデンでは、1998年に幼児教育における大きな改革があり、幼稚園と保育園をプレスクールとして一体化した流れがある。この背景には、専業主婦の減少と、働く母親の増加がある。今では、スウェーデンのほとんどの母親は働いているため、保育時間の短い幼稚園のニーズはほとんどなくなり、保育園の需要が増えた。そこで、幼稚園の教育的役割を持たせた保育園として、プレスクールが誕生した。プレスクールは、幼児教育と子どもをケアする役割の両方を担うということで「Educare」(Education + Care)というテーマを掲げる。
スウェーデンのプレスクールの特徴は、指針となる大まかなカリキュラムは定められているが、基本的な運営や教育内容、保育内容は、各自治体と園にゆだねられている点だ。そのため、園(プレスクール)によって、方針や内容がすべて違う。1クラス36人の大人数クラスで運営する園もあれば、6人の少人数クラスの園もあり、イタリアの教育方レッジョ・エミリアを導入する園があれば、スウェーデンの自然教育ムッレを導入する園もある。スウェーデンが目指すのは、すべての園で、質の高い幼児教育と保育を実現することだ。
しかし現状では、多くの親は、家や会社から近いとか、通勤の途中にあるといった利便性で園を選ぶ。一方、園の教育方針や保育体制を見極めて選ぶ親もいる。ここに、幼児教育の二極化が起こるのである。つまり、「選ぶ目を持つ親」と「持たない親」によって、子どもが受ける教育や保育の質に差がでてしまうのである。これについては、エングダール教授も問題視していた。すべての園の質が上がれば、この二極化は解消でき、スウェーデンの教育レベルを底上げすることが出来る。そのためには、質の高いティーチャー(保育士の先生)を育成する必要があると結論付ける。
ここからは私見であるが、スウェーデンのようにカリキュラムに自由度が高い国では、親が園を選ぶ基準が利便性である限り、園の質は上がりにくいのではないだろうか?園の教育・保育の質を常に上げる努力をしない園は、園児が集まらない状況にならなければ、質の低い園は、質を上げる努力や試みをする必要はないのである。つまり、変化は起きないのである。では、どうすればよいか?そのひとつの答えが、私は「親教育」だと考える。
子どもにとって、どんな教育、どんな保育が良いかは、子どもの個性によって違う。だからこそ、親がそれを見極めることが出来るだけの目を持つ必要がある。そして、親たちの園を選ぶ基準が、利便性から教育と保育の質に変われば、園もそれに答えざるを得ない。そうすることで、園の質も向上するし、ティーチャーもスキルアップを要求され、質が向上する。そんな好循環を生むことが出来るのではないだろうか。
次のページ北欧視察が現地の新聞に掲載されました